左)ホルマリン固定後、生理食塩水に浸漬したマウス胎仔
右)ホルマリン固定後、透明化試薬(Sca
le)に2週間浸漬したマウス胎仔
新開発の化学薬品によって、近い将来、頭の中を科学者に見透かされてしまう時代が来るかもしれない。この薬品は、脳組織を完全に透明化できるからだ。
「
Scale」というこの化学薬品は、
生体組織を透明化して光を奥深くまで通すことにより、細胞その他の構造に標識としてつけられた蛍光を直接観察できるようにするものだ。開発者たちによると、この発明は、医用画像の新たな領域を拓く可能性を秘めているという。
日本の
理化学研究所脳科学総合研究センターの
宮脇敦史氏は、プレスリリースの中で次のように述べている。「今回の研究では、主にマウスの脳を材料にしたが、Scale技術はマウスや脳以外にも適用可能だ。心臓や筋肉、腎臓といった他の器官や、霊長類およびヒトから採取した生検組織試料への適用も目指している」。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部の神経学者ポール・トンプソン氏は、Sca
leで透明化されたマウスの器官や胎児の写真に驚いたと話す。「脳画像を研究して20年になるが、これを見て本当にあっと驚いた」。トンプソン氏は今回の研究には参加していない。
<透明化で薬の効き目が見える?>
Scaleは、比較的シンプルな材料からできている。尿の主成分である
尿素、
グリセロール、それに「
TRITON X」の名で知られる界面活性剤だ。
マウスの脳、さらには胎児を丸ごとSca
le溶液に2週間漬けたところ、いずれも透明に変化した(上図)。
これまでにも、医用画像向けに細胞を透けて見えるようにする薬品は開発されているが、Scaleが従来の薬品と違うのは、観察したい蛍光タンパク質のシグナルまで一緒に消し去ってしまわない点だ。蛍光タンパク質は、ニューロンや血管などの小さな身体構造に標識をつけるのに用いられている。この蛍光イメージング技術は現在、脳の細胞構造のマッピングなどに用いられているが、理化学研究所によると、Scaleはこの種の研究にかつてない成果をもたらすことが期待できるという。
UCLAのトンプソン氏によると、Sca
leはそのほか、CTスキャンやMRI(核磁気共鳴画像法)といった、より複雑で高価な技術に頼る前に、撮像対象を詳しく観察する上で役立つ可能性があるという。
「
治療の効果が、脳や器官の治療したい部分に本当に到達しているかどうか、視覚的に確認できるようになるかもしれない。例えば、
アルツハイマー病の治療において、脳に蓄積する班を除去したい場合、薬剤が本当に班を除去しているかどうか見られるようになれば、これは大きな進歩になりうる」とトンプソン氏は述べている。
<「透明人間」の実現はまだ先>
とはいえ、
実験動物が「透明人間」のようになることは当分ないだろう。Sca
leは生きたままの動物に使用するには
毒性が強すぎるためだ。しかし宮脇氏は、いずれこの問題は解決すると考えている。
「
われわれは目下、別のもっと毒性の弱い試薬候補の研究を進めている。開発に成功すれば、生きたままの組織を、透明度はやや落ちるが同じやり方で調べられるようになる。その結果、以前はまったく不可能だった研究にも可能性の扉が開くだろう」と宮脇氏は述べている。
今回の研究は、「Nature Neuroscience」誌オンライン版に8月30日付で発表された。
(NATIONAL GEOGRAPHIC公式日本語サイト)
試薬に漬け込んでおくだけで、組織が透明化するとは面白いですね~。
もっとも、この研究の成果は「透明化」することではなく、「透明化し、なおかつ蛍光タンパクを失活させない」ということに価値があるようです。
理系の大学などで研究事に携わったことがある人なら分かると思いますが、「Sca
le」の組成である尿素、グリセロール、Triton-Xはどれも安価な一般試薬で、そんな単純な組成で作られていることも驚きです。
「Sca
le」の由来はおそらく、英語の「
Scale」(定規)に「
透ける」を掛けているのでしょう。
「
透け~る」というわけです。日本人のダジャレセンスが光りますねw
サンジが飛びつきそうな話でしたが、今の技術では透明になるためには命をかけなければいけないようです。また透明になったマウスの胎仔は肝臓と目の部分は透明になっていませんよね。これは肝臓にはビリルビンなどの色素があり、目は網膜に色素があるためで、Sca
leでは色素は透明化しないようです。
考えてみれば、網膜まで透明化してしまえば目に入る光りが吸収できずに透過してしまうため、
透明人間は何も見えないことになってしまいますね。折角、透明化したのに女風呂が覗けないのでは意味がないですから、目は透明化していないのが正しき透明人間なのかもしれません。
理研プレスリリース
Nature Neuroscience