■健全・仲間思い「居場所」求めて
「おれは海賊王になるぞー」
ほこりにまみれ、薄汚れた松山ケンイチがテレビ画面で雄たけびをあげる。今月始まったNHK大河ドラマ「平清盛」だ。
このセリフ、聞き覚えがある人もいるだろう。大人気マンガ「ONE PIECE(ワンピース)」で物語序盤、主人公の少年ルフィが高らかに宣言する。「海賊王に、おれはなる」
「正義の味方」であるはずの戦隊ヒーローもいまや海賊だ。放送中の「海賊戦隊ゴーカイジャー」に主演する小澤亮太さんは「何にも縛られず、ちょいワル。でも、根はまっすぐで、仲間を思う気持ちも強い」と海賊の印象を話す。「『ワンピース』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』が好きで、そこで築かれたイメージで演じている」
海賊を主役に据えた理由を、「見た目がわかりやすく、格好いい」と宇都宮孝明プロデューサーは言う。ドクロ旗、帆船、湾曲した刀――。「悪の帝国に従わないので『海賊』と呼ばれるけれど、その悪名さえ誇りにする。どこにも属さない究極の自由人です」
「自由人」と言われても、ピーターパンの敵役の残忍で狡猾(こうかつ)なフック船長や、ソマリアで身代金を要求する現実の海賊には、しっくりとこない。「良い海賊」と「悪い海賊」がいるということなのか。
■大英帝国が美化
「犯罪者のはずの海賊を大英帝国が英雄に美化した」と言うのは、『世界史をつくった海賊』の著者、独協大の竹田いさみ教授だ。
16世紀後半、エリザベス1世の時代。スペインなどに国力で後れをとる英国は海賊船を公認し、敵国の商船を襲撃させて、貴重な物資や鉱産物を持ち帰った。スペイン無敵艦隊に勝利したのも、海賊の加勢があったから。大海賊には地位と名誉が与えられ、国民のナショナリズムの高揚にも一役かった。「国益に奉仕すれば英雄、私的利益だけ追求すれば犯罪者というわけです」
18世紀に入ると、英国は海洋覇権を握り、一転、海賊を「厄介者」と取り締まる。しかし、民衆にとっては英雄であり続けた。「富裕層に搾取される民衆が、富の象徴とも言える商船を襲う海賊を支持した」と明治学院大の石原俊准教授は話す。
産業革命を迎えようとする時代、農民は土地を奪われ、都市労働者も悲惨な目に遭っていた。商船の過酷な環境に耐えかねた水夫や奴隷らが集った海賊船は、掟(おきて)を合議で決めたり、分け前をかなり公平にしたりするケースが多く、国籍や人種を超えた平等社会を先取りしていた、とみる。
■宝、目的じゃない
では、いまの日本で「海賊」は、どう描かれているのだろう。
「ワンピース」も「ゴーカイジャー」も、主人公は宝探しの冒険家。まっすぐで健全、民衆への盗賊行為などもってのほかだ。仲間との絆が強調され、和気あいあいとしたコミュニティーを形づくる。
今月始まったテレビアニメ「モーレツ宇宙海賊(パイレーツ)」にいたっては、主人公の女子高校生が船長として宇宙船に乗り込み、豪華客船向けにコスプレまがいの海賊襲撃イベントを請け負っている。かつて独立戦争の際には、「私掠(しりゃく)船免状」と呼ばれる自由な航行許可を国から与えられ、正規軍と共に戦ったが、平和な世になってしまって、「営業」にいそしんでいる。
では、なぜ海賊をやっているのか。原作小説『ミニスカ宇宙海賊』の作者、笹本祐一さんは「宝が欲しいのではなく、はみ出し者だったり、よそでつらい目にあったりした人間たちが、自由でいられるから」と言う。
そこそこ平和、でも息がつまりそうな昨今、海賊船のような「居場所」を、みんな探しているのかな。
(asahi.com 著:宮本茂頼)
大英帝国の海賊の話は王下七武海のモデルである私掠船(privateer)のことです。エリザベス1世はこの私掠船を積極的に認めていたため海賊女王なんて呼ばれ方もします。戦争時は在野の海賊も戦力に加えていました。
X・ドレークのモデルになった私掠船船長フランシス・ドレークは提督としてアルマダ海戦に参加しています。この辺のことは「ワンピース探訪」カテゴリで記事にしているので興味があったらどうぞ。。
NHK大河ドラマ 「平清盛」
松山ケンイチ 「おれは海賊王になるぞー」