柳田理科雄氏の空想科学読本シリーズは特撮や漫画の中の様々な事象を現代科学を用いておもしろ可笑く切り開く理系パロディ本。最近のシリーズは読者から寄せられたお題に挑む形式になっており、今月発売されたシリーズ最新巻の『
空想科学読本11』では、「
ナミの天候棒」についての疑問が寄せられ、「
室内で雨を降らせる」ことは可能か検証しています。
※「覚え書き」記事は立ち読みしたネタを取っ掛りに書いている記事であるため、実際の書籍の内容と異なる部分が多々あります。
まず、雨を降らせるためには雲を作らなければなりません。本シリーズの読者層は主に小中高生であるため、雲のでき方が分かり易く説明されています。雲ができる仕組みは確か中学校で習い、原理的なことは高校化学で学んだはず。
ざっと説明すると、
湿った空気が上昇気流などによって高度に運ばれ、気圧の低下に伴い気温が下がって空気中の水蒸気が凝結して水になるか、もしくは凍結して氷になり、空にふよふよ浮いているものが雲です。
原理は下図の通りです。これは高校化学の話。
飽和水蒸気量というのは空気中に含有できる水分量のことで、飽和水蒸気量を含んだ空気は湿度100%ということになります。グラフ(青の曲線)を見ての通り、気温に依存しており、気温が高ければ量が多く、気温が低ければ量が少なくなります。冬は空気が乾燥するというのは、つまりそういうことです。
例えば、地上に気温30℃、湿度100%の暖かく湿った空気があり、これが上昇気流によって空高く運ばれていくとします(図)。気温は高度が100m上がるごとに約1℃下がるので高度2000m上がったとすると、気温は20℃下がります。そうすると飽和水蒸気量は小さくなるので、空気中の水分が過飽和状態になり、含有しきれない水分が凝結しします。そして、凝結したひとつひとつの
雲粒が互いにくっついたり凍結したりして成長し、浮遊しきれなくなて落下してくるのが
雨粒というわけです。
風呂場で天井の水滴が落ちてきて「Σつめたっ!?」となった経験があると思いますが、あれと同じですw 浴槽の暖かい空気が、天井で冷やされて凝結し、表面張力で支えきれないまで成長すると落下してくるというわけです。
ナミは当然その知識があるので、アラバスタでミス・ダブルフィンガーと戦った際、
試作版の天候棒(クリマタクト)を使って、”
冷気泡(クールボール)”に”
熱気泡(ヒートボール)”をぶつけて雲を作ったのでした。実際は対流があるので、こんな小規模で雲が作れるのかというのは甚だ疑問ですが、そういうのは言いっこなしよということでw
問題のシーン
エニエス・ロビーにてカリファの”
ゴールデン泡(アワー)”を受けてつるつる人間になってしまったナミは、同様の原理で屋内で雨を降らせ(”
レイン=テンポ”)、泡を洗い落とし、この危機を脱しました。では雲は出来たとして、実際に問題のシーンのようにどしゃ降りの雨を降らせることができるのでしょうか。
雨量は空気に含まれる水分に左右されるので、”
熱気泡”の熱さが雨を降らせるキーとなります。しかし、”熱気泡”を受けたポーラの「
むわっとする」という発言から、大した熱さではないようです。アラバスタの砂漠気候の中で「むわっとする」というぐらいですから、大体
40℃ぐらいでしょう。”
冷気泡”については「
ひんやりする」と言っているので、冷蔵庫の冷気程度で
0℃ぐらいでしょうか。
40℃の飽和水蒸気量は空気1立方メートル当たり51.2グラムで、その空気が0℃まで冷えると、凝結する水分は46.4グラムになります。”熱気泡”の
直径を50cmと仮定すると、
その体積は0.0654立方メートル(65.4リットル)となり、湿度100%の”熱気泡”が0℃に冷やされると
3グラムの水分が凝結するということになります。雨粒にすると
たったの60粒ですw これだけではナミが軽く湿ってやや艶っぽくなるだけで、泡を全然落しきれませんw 旧式の”レイン=テンポ”の方がよっぽど水量がありますね。
そういえば、
試作版の天候棒では口で空気を吐いて”熱気泡”を出しているシーンがあるので、その容量は
ナミの肺活量そのものなのですが、成人の平均肺活量が3リットル程度ということを考えると、65リットルというのは化け物ですw
1個の”熱気泡”では全然足りないので、実際は何個も飛ばして雲を成長させています。問題のシーンではどしゃ降りの雨が降っているため、少なくとも
バケツ1杯分(5リットル)の雨量は欲しいところです。”熱気泡”1個で3グラムの雨量が得られるので、バケツ1杯分の雨雲を作るには
約1700個の”熱気泡”が必要となります。「ポポポポポ」と1秒間に5個出す早技でも雲を完成するのに5分以上かかってしまい、そんな悠長なことをしてたらカリファにすぐやられてしまいますw
※飛ばしているのは”冷気泡”→後述
しかし、エニエス・ロビーでは空島産の
貝(ダイアル)を組み込んだ
完全版天候棒(パーフェクト・クリマタクト)を使用しているので、”熱気泡”は数段威力が上がっています。しかも、この場面では実際は”熱気泡”ではなく”
クラウディ=テンポ”を使用しているのですが、本書ではネタの都合上で無視されています。
空想科学読本シリーズの構成は面白さを重視して、しばしば強引な考察をするため、原作ファンの怒りを買ってこんな↑本も出たこともあったのですが、別に怒るようなことでもないですねw
このシーンで、”クラウディ=テンポ”は完全版天候棒を3本つなげた状態で
1発、
打ち上げのように発射されています。発射された”クラウディ=テンポ”は「シュルルル」と天井を走り渦巻き状の雲になりました。この雲にさらに”冷気泡”をいくつもぶつけて温度を下げ(先の注釈付のコマ)、”レイン=テンポ”を完成させたので、”クラウディ=テンポ”
1発分ですでにバケツ1杯分の水分を含んでいることになります。
「
ポウッ!!」というオノマトペで天候棒から飛び出した熱気は、「
シュルルル」と瞬時に雲に成長したことから推察すると、”クラウディ=テンポ”とは打ち上げられた
高圧で熱い水蒸気の塊が急激に膨張して温度が下がることによって雲をつくる技のようです。完全版天候棒に何のダイアルが使用されているかは明らかにされていませんが(丸い部分に貝が内臓されている?)、”クラウディ=テンポ”を使うだけでも、
風貝(ブレスダイアル)、
水貝(ウォーターダイアル)、
熱貝(ヒートダイアル)の3つは必要でしょうね。
発射された水蒸気の塊の体積は「ポウッ!!」と発射されたわけですから、完全版天候棒の内容量を超えることはありません。と、言いたいところですが、貝(ダイアル)が物理法則を無視していることを忘れてはいけませんw ここでは、分かり易く考えるため
水貝からバケツ1杯分(5リットル)の水が勢いよく出つつ、熱貝で瞬時に熱が加えられ、風貝で発射されたと考えます。あるいは、熱貝と水貝は一体化しているのかもしれません。
いろいろ細かいことは無視して、5リットルの水が瞬時に水蒸気になったとするとその気体の飽和水蒸気量
a(T)は
となります。要は空気全部が水ですw
この飽和水蒸気量は温度
T[℃]、飽和水蒸気圧
e(T)[hPa]とすると状態方程式(←高校化学)を用いて次式で表すことができます。
※ここから数式が炸裂しますが、分からない方は流し読んで大丈夫です。
状態方程式は理想気体(分子の大きさや分子間力を無視した仮想の気体)に当てはまるもので、実際は水には当てはまらないのですが、理想気体じゃないとすると計算が複雑すぎて手に負えないので無視します・。・
e(T)は下式の通り近似できます(立式は知らない)。
上式を用いて温度Tを求めると、、
計算が面倒くさいので
として、
対数をとると、
となり、これを解くと
ちなみに、
となり約1になることが確認できます。
よって、”クラウディ=テンポ”で発射される水蒸気の塊の温度は
1092度となりました。もう直接、敵に当てた方が有効な気がしますねw 1000度の熱風であれば相当のダメージを与えられるはずです。
これを状態方程式に戻して圧力を計算するととんでもない数値になるのですが、まぁ最初の仮定の段階に無理があるので仕方ないですねwどうやら気体ではなく
超臨界流体(プラズマ的なやつ;高校化学では手に負えない)という状態になっているようです。とにかく、熱貝がとんでもない熱を出しているということは間違いないですw
結論: 完全版天候棒は熱くて素手で持てない。
余談ですが、空気の凝結や凍結は塵や塩分などの核となるものがあると起きやすいので、完全版天候棒の水貝には海水が入っていると思われます・。・
空想科学読本 「ワンピース」ネタ 【覚え書き】
【覚え書き】 マンガ建築考 「ワンピース」ネタ 【インペルダウンに秘められた衝撃の事実!?】