■15年、人生に溶け込んで 作家・中村文則さん
締め切りを終えた夜、「ONE PIECE展」へ行った。僕は『ONE PIECE』が大変好きである。「あらゆる世代に楽しんでもらおう」というサービスに満ちている。
たとえば“麦わらの一味”のメンバーも、多様な年齢層になっている。冒険漫画でこの構成は楽しい。新刊でルフィがジンベイを仲間に誘ったけど、これが実現すれば年齢はもっと多様になる。ジンベイは今四十六歳だ。
さらに付け加えれば、試しに“麦わらの一味”のメンバーをランダムに選んで、二人きりにしたところを想像してみて欲しい。ぎこちなくなったり、会話が弾まなくなったりすることは(メンバー同士の世代が違っていても)絶対にない。これは各メンバー同士の関係の深さが偏らないように(かつ個性的になるように)見事に構成されているからだと思う。このような決め細やかさは驚異的である。読む側からすれば、本当にありがたい。
そしてこの「ONE PIECE展」も、「あらゆる世代に楽しんでもらおう」というサービスに満ちている。
子供たちなら展開されている斬新な映像などに、僕のような「大人」なら、美しい原画や再現された作者尾田栄一郎さんの仕事机などに心惹(ひ)かれたりするだろう。等身大のフィギュアには、世代も関係なく迫力を感じると思う。漫画の世界のはずなのに、目の前にリアルに、そこにある。必見である。
『ONE PIECE』は一九九七年から連載がスタートしている。十五周年だそうだ。もう六十巻を超えている各コミックの表紙と、刊行年数が記されたコーナーが途中に何気(なにげ)なくあるのだけど、そこで長く立ち止まる人たちも多かった。彼らの後ろ姿を眺めながら、何だか心にしみるものがあった。
みなが、それぞれの表紙を指さしながら、語り合っている。「この頃俺ら高校生だったよね」とか、「空島編の時、私たちまだ結婚してなかったんだ」という風に。長く、そして広く読まれているものは、大勢の人生の中に溶け込む。その美しさを実際の光景として見ている気分だった。それぞれの人生と共に、『ONE PIECE』も歩んでいる。十五年か、と僕は思う。『ONE PIECE』が始まった時、僕は大学生だった。まさか自分がこういう人生を歩むとは。僕が作家デビューしたのは『ONE PIECE』二十五巻が出た頃。僕はまだ駆け出しの作家だった。ルフィの懸賞金は一億を超えていた。
帰りに、会場でしか売られていないグッズの中から、絵葉書(えはがき)を選んで購入した。仕事机の脇に立てかけている。
◇
なかむら・ふみのり 1977年生まれ。2005年、「土の中の子供」で芥川賞。10年に『掏摸(スリ)』で大江健三郎賞。近刊に『王国』など。
(朝日新聞デジタル)
>“麦わらの一味”のメンバーをランダムに選んで、二人きりにしたところを想像してみて欲しい。ぎこちなくなったり、会話が弾まなくなったりすることは(メンバー同士の世代が違っていても)絶対にない。
・・・確かに。
漫画本編では色々な組み合わせが描かれており、どの組み合わせも違和感は全然ないですし、おもしろい。作家視点のこういった構成の評価は説得力がありますね・。・
ちなみに、中村文則さんからは
「ワンピースのような漫画が描かれている限り漫画界は安泰」
という名言が出ていますので、そこのところ宜しくお願いします。(←何が?w
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