『FILM Z』映画評のまとめ。ここでは3つのレビューを紹介します。
1つ目は週刊ONE PIECE新聞に掲載された
公式の映画評、2つ目は映画を見極める力が確かな
映画の達人による映画評、3つ目は
非ワンピースファンの映画評です。ファンとしての私の感想はすでに
別の記事で書いているので、この三様のレビューを選びました。いずれのレビューもうなずける部分が多々あり、2つ目と3つ目はファンブログに敢えて載せることに意味があることだと考えています。
『FILM Z』を観て不満な箇所があった方は、この3つの映画評を読み終わった時に割とスッキリした気持ちになるかと思います。逆に、「全然不満なんかなかったよ!超面白いじゃん!」という方は読まない方がいいです。
「ONE PIECE FILM Z」
2012年12月15日公開
監督:長峯達也
原作・総合プロデューサー:尾田栄一郎
作画監督:佐藤雅将
音楽:田中公平 浜口史郎
オープニングテーマ:中田ヤスタカ(capsule)
主題歌:アヴリル・ラヴィーン
◆
「ONE PIECE FILM Z」映画評/週刊ONE PIECE新聞
涙せずには、いられない・・・。全編を通じて描かれる男の生きざまと、信念と信念のぶつかり合いが、胸をストレートに貫いていく。ルフィにはルフィの、ゼットにはゼットの、そして海軍には海軍の信じる道がある。そこへ向かって突き進む姿が、感情のひだを揺さぶり、まぶたの奥に焼き付いて離れない。
オープニングから、しびれる。美しい影絵のようなシルエットが躍動し、中田ヤスタカ氏の軽快な音楽が小気味よく絡む。
英映画「007」ばりのスタイリッシュさは、それ単体で作品と呼べるほどのハイクオリティーだ。その勢いのまま一気に最後まで突っ走る。目を離すスキはない。
ルフィとゼットの殴り合いは、現実に殴られているような質感がスクリーンから押し寄せ、名作映画「ドラゴンへの道」のブルース・リーとチャック・ノリスの激闘をほうふつさせる。また
青キジは、もう1人の主人公と言っても過言ではない存在感を放っている。
”麦わらの一味”のコミカルな掛け合いも存分に描かれ、子どもを中心に全世代で楽しめる作品となった。
そして、作品の感動の波はさらに大きくするのが
挿入歌「海導」だ。聴けば、きっと涙せずには、いられない・・・。
【村上幸将】
日刊スポーツ記者
◆
ONE PIECE FILM Z (2012)/映画検定外伝
『ONE PIECE』の妙味であるドロくさい浪花節を堪能できる一本ではあるのだが…。
週刊少年ジャンプにて連載15周年を迎え、コミック累計発行部数2億6000万部を誇り、新巻が出る度に初版記録を塗り替える史上空前のヒット漫画『ONE PIECE』。本作は、そのアニメ版の劇場映画、通算第12作である。
メガヒットを飛ばした09年の第10作『STRONG WORLO』の夢よ再び!とばかりに原作者、尾田栄一郎を総合プロデューサーに再び迎え、気合充分。『SW』同様、今回も“海賊の宝袋”なる入場者特典があり、設定情報がぎっしり詰まった小冊子やシール、スタンプといったオマケ付きの大盤振る舞い!何がなんでも特大ヒットさせんとする並々ならぬ決意が窺えよう。
わざわざハリウッドのファンタジー超大作に公開日をぶつけてきた本作。はたして国産アニメの意地を見せつけたのか…!?
酸素にふれると大爆発を巻き起こす、危険な鉱物ダイナ岩。海軍が厳重に保管する、そのダイナ岩が強奪される事件が発生した。犯人は、元海軍大将ゼットと能力者の部下、アインとビンズ率いる“NEO海軍”。ゼットはダイナ岩を利用して、全ての海賊を抹殺するとんでもない計画を目論んでいた。
一方、ついに“偉大なる航路”後半の海、“新世界”に突入した、船長ルフィ率いる“麦わらの一味”は、海軍大将の黄猿との戦いに傷付き漂流していたゼットを救出する。しかしゼットはルフィたちが海賊と分かるやいなや、突如、一味を攻撃。そこにゼットの仲間も現れ、サニー号は半壊してしまう。寂れたドック島に流れ着いた一味は、アインの能力に侵された仲間をもとに戻すためゼットの消息を追い、リゾートの火山島セカン島に向かうのだが…。
根っからのジャンプっ子である僕としては、もちろん『ONE PIECE』は愛してやまない漫画のひとつである。
ただ長期連載の宿命か、同じパターンの繰り返しの上、先に進めば進んだだけ風呂敷が拡がり、終わりが一向に見えてこない途方もなさに食傷気味であるのは確か。加えて、アンチが槍玉にあげる“泣かせの強要”も年々くどくなっており、内容に作者のイデオロギーが色濃く反映され出している点も気にかかる。
これらの要素は、ひとえに作者が偉くなり過ぎて独裁化し、その絶対的自信が前面に滲み出てしまっているのであろう。これだけ経済を動かす規模に作品が発展すれば詮無いことであり、尾田氏に罪はあるまい。何より
氏が命がけで精魂込めて取り組んでいるのが分かるゆえ、見捨てる気が起きないのが複雑なところである。
この点、良い意味でいい加減であった鳥山明と大きく異なるところといえよう。
という訳で本作も、件の尾田天皇が独走している感があり、軌道修正が施された痕跡はない。ハッキリ言って、
造り手がゼットというキャラに酔い、客のことを考えているようでいて逸れている。
せっかく脚本に鈴木おさむを抜擢しながら、氏の特性を活かしていないのも宝の持ちぐされだ。
テーマはよく分かる。
信じた正義にとことん裏切られ道を踏み外し、“目的のためなら罪のない人がどれだけ犠牲になってもかまわない”と、間違った正義を掲げて暴走するゼット。そんなゼットとルフィは、目的に向かって猛進するという意味では合わせ鏡の関係だ。ルフィが出会った
ドック村の鼻たれ少年ガリはヒーローに憧れており、“海賊”になるか“海兵”になるか、純粋に迷っているところにその点は象徴されていよう。
正否はともかく、
己の信念に殉じている二人の激突は、爽やかに胸が熱くなる。
が、
僕が一番ひっかかったのは、ゼットが完全に海軍に絶望する決定打となった1年前の“ある事件”の経緯を謎にした点である。おそらく原作の今後を考えてそうしたのだろうが、ここは根幹のドラマではないのか?
なぜ海軍は、あのような人事をしたのか?なぜゼットだけが反発し、他のゼットの教え子である海兵たちや、盟友であるセンゴク、ガープたちはその決定に甘んじているのか?
そこの海軍の思惑とゼットの確執を描かなければ、本ストーリーは成立しまい。僕は観ていてフラストレーションがたまりまくりであった。
自然、見せ場となるゼットと海軍の対峙も、両者の関係性が見えないため全く盛り上がらない。悲壮感溢れる、いいシチュエーションが台無しだ。
ゼット自体は、確固たる思想を持つ、おふざけのないシリアスな敵キャラという、
勧善懲悪の原作にはないタイプで魅力充分である。それだけに惜しい。
ゼットと青キジのベタつかない関係性なんぞも、渋くて格好いいのに…。
全体的な構成も、
ルフィ側にたいしたドラマがないので起伏がなく、平板極まりない。ずっと説明に次ぐ説明に追われている。
ゼット側との攻防も、やられて、やられて、やりかえすとただの段取り。
任侠映画のノリで盛り上がった『STRONG WORLO』の方が、まだマシである。
アクションもOPから
モブシーンが全然ダメ。
ゾロVSアイン、サンジVSビンズのバトル描写には唯一、眼を見張ったが…。
アインとビンズといえば、
アインの声優、篠原涼子の下手くそぶりはともかく、
ビンズ役の香川照之の声の見せ場のなさには呆れた。なんという勿体なさ。
しかしながら内容はいまいちであったが、かつての『東映まんがまつり』のような子供向けの消費物ではなく、
きちんと原作に直結させ、大事に劇場版を造る姿勢は歓迎したいところである。添え物であったTVアニメの劇場版の概念を覆した尾田氏のがんばりには、心から敬意を表したい。
大ヒットするのも、観客がその心意気に打たれた部分も多かろう。
【相木 悟】
映画検定1級合格者。現在公開中の映画から旧作まで、映画評を自身のブログ「映画検定外伝」に毎週アップしている。本記事は映画情報サイト「MOVE ENTER」にも掲載。
◆
映画評「ONE PIECE FILM Z ワンピース フィルム ゼット」/役所内診断士のヨモヤ
私は、成功の規模によって、負うべき責任も変わってくると考えている。
もちろん、どんな作品も魂を込めて作ることは大前提であるが、あらかじめ多くの人間が見ることが約束されている作品は、それにふさわしい責任を引き受ける覚悟が必要だと思う。
日本において、「ワンピース」という漫画、アニメの存在は絶大である。
映画を公開すれば、大ヒットは間違いない。
普通のヒットではない。
年間最大級のヒットとなることが、公開の段階で、ほぼ見込まれる。
であれば、それだけの責任を引き受けなければならないと、私は思う。
年間最高クラスの娯楽作品か、賛否は分かれても心に刻まれる作品か。
いずれにしても、トップの作品を作る責任があると思う。
私は、ワンピースという作品にほとんど思い入れのない一見さんだが、そうした人間が見たとき、「ONE PIECE FILM Z ワンピース フィルム ゼット」は、残念ながら物足りない作品だった。
ルフィの魅力はほとんど伝わってこないし、ストーリーの説得力も希薄。
実質的な主役であったゼットという人物へも、どうにも思い入れができなかった。
この国で一番のヒット作になるということに対する構えが、できていないように思えた。
すべての面で
「大体この辺で」
という感じで作られていたように見えた。
日本でダントツナンバーワンの作品を作ってやる、という気迫は感じられなかった。
そうした映画のなかで、
「海賊王に俺はなる!」
と叫ばれても、正直、ピンと来ない。
ワンピースファンのみなさんは、今作をどのようにご覧になっているのだろう。
このくらいの感じで、満足されるのだろうか。
ひどい作品とまでは思わないし、さすがによくできている、と感じるところもあった。
酷評するような映画ではないだろう。
しかし、トップを引き受ける覚悟はうかがえなかった。
身を切り刻んでも、先頭ランナーの責任は果たしきる、といった気迫は見えなかった。
そこが残念である。
【淋】
役所内の中小企業診断士。本記事は映画評のネット検索でページ上位にヒット。
3つ目の映画評はワンピースファンではない(かつアンチではない)方のある意味貴重な感想だったため載せましたが、一応コメントしておくと、『FILM Z』はTVアニメ劇場版なのだからファンのために作られた映画であることは明らかです。ファン人口の多い作品をファンが観てヒットしているのであって、それによってヒット作としての責任を負うなんてことはおかしな話です。実は、自身の評価以上に売れているからと叩くアンチと変わらない考えです。「ONE PIECE」を知っている程度では最終決戦のルフィとゼットの腕が黒くなることは理解不能でしょうし、知らない人がヒットしてるからと言って『FILM Z』を観てつまらないと思うのは論外でしょう。
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