「さきの衆院選では、民主党の議員の多くは党が劣勢と分かるやいなや、そそくさと逃げ出し、中にはぬけしゃあしゃあと別の党から出馬する恥知らずも」
と仲間意識の低い政治家たちを批判する。さらに
「企業社会も同じです。自分の責任を部下に押し付けてリストラを繰り返したり、自分より優秀な部下は登用どころか『態度がでかい』だのと難癖付けていぢめたり飛ばしたりと、自分の保身しか頭にない声だけデカい女の腐ったようなやつばかり」
と激しく攻撃。若者が3年ほどで早期退職してしまう現状を「自分の保身しか考えていないへっぽこ&臆病者のリーダー(上司)、つまり『ワンピース』でルフィにボコボコにされるようなダメリーダーにどこの誰がついてくのでしょう?」と分析する。
この記事を受けて、ネットでは
「ちょっと何言ってるか分からない」
「あほくさ。マンガをリアルの模範にすんなwww」
と現実的なツッコミが寄せられている。
「俺オタ方面に足突っ込んでるけど、こんな事言い出す奴とは話したくないな」
「ワンピは好きだけど所詮漫画なんだからこういう話で引き合いに出すのはやめて欲しい」
とワンピースファンからも冷めた感想が寄せられた。こうしたツッコミを予想していたのか、記事は「漫画なんか引き合いに出してアホかという方もおられるでしょうが」と断り、
「2年以上在任した首相はたった2人だけで、2006年以降、首相がほぼ毎年変わるという世界からみれば『漫画以下』の国がいまの日本だということをよく理解しておいた方がいいでしょう。安倍晋三首相にはぜひルフィのような侠気(おとこぎ)あるリーダーになっていただきたいものです」
と締めくくっている。
ちなみにj-castが昨年12月に実施した、「首相になってほしい『人』は誰ですか?」というワンクリック投票では、「ルフィ」は9候補中、7.9%の得票で4位だった。
■今世紀最大2日間で100万人、原作も国内3億冊…の理由
劇場版としては12作目となるこの作品、週末の国内興行収入ランキングで1位なのは当たり前。土・日2日間の114万人突破という数字は、何と2001年以降に公開された邦画では最高の数字だといいます。
国内映画関係者の間では、2012年公開の邦画で興行収入1位となった実写映画「BRAVE HEARTS 海猿」(興収73億3000万円)を超えるのではとまで言われ始めました。
悪魔の実「ゴムゴムの実」を食べたため、全身を自在に伸縮させられる“ゴム人間”となった主人公の少年、麦わらのルフィー(モンキー・D・ルフィ)率いる“麦わら海賊団”が「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を求めて戦いを繰り広げる海洋冒険物語は、99年10月からはアニメもスタート。既にコミックスが68巻まで発売されていますが、累計発行部数は国内最多の累計2億8000万部!!。
2010年3月発売の57巻は初版発行部数300万部で、国内では世界的ベストセラー小説「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」の290万部を抜いて日本記録を達成。2012年8月3日に発売された67巻の初版発行部数は405万部と前人未到、というか理解不能の売り上げです。
無論、劇場版のアニメ映画はどれも大ヒット。また、映画のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)では、2008年の夏に「ワンピース」のショーをスタートさせ、2010年からは夏の恒例イベントとなっているのですが、このイベント、別料金なのに毎回超満員御礼のうえ、観客には20代のOLや中年世代も少なくないといいます。
そんな「ワンピース」ですが、今回の劇場版では初めて「新世界」編に突入、全海賊の抹殺をたくらむ首謀者で、伝説の元海軍大将・ゼットと麦わら海賊団が壮絶な戦いを繰り広げます。赤犬に敗れて海軍を去り、行方をくらましていた海軍本部大将、青キジがルフィたちと再開を果たすなど、原作が描いていないサプライズも盛り込んでいます。
■人気の理由2つ…まず、王道のストーリー
配給元の東映でも「興行収入がどこまで伸びるか読めません」というほどの爆発的ヒットですが、その理由について「最大の要因は原作がヒットしていることだと思います。物語もキャラクターも細部まで緻密に練られているので、多くの人を惹(ひ)き付けるのでしょう。今回の劇場版の設定資料を見ても、総合プロデューサーを務める尾田先生からキャラはもちろん、彼らの衣装や帽子、武器に至るまで、非常に細かな指示があり、大変なこだわりが感じられました」と説明。
さらに「今回の劇場版は尾田先生監修のもと、鈴木おさむさん(人気放送作家)が脚本を手掛け、原作につながる物語が成立しているだけでなく、青キジの登場など原作で描かれていない内容もあり、見どころが多いところも大人気につながっているのでは」と分析しています。
ではその原作、つまり漫画の方はどうして国民的作品になるほどの人気と支持を獲得したのでしょう。いろいろ分析してみると、大きな理由が2つ見つかりました。
まずひとつは、今時珍しい王道の少年漫画であることです。日本製の漫画やアニメが海外でも高い評価を得たこともあり、漫画市場は一時、急拡大しましたが、その反動で作品の粗製乱造も始まり、最初から少数のコアなファンや特定・隙間市場だけを狙う万人受けを放棄した“邪道作品”が目立つようになりました。
しかし「ワンピース」は週刊少年ジャンプのスローガン「友情・努力・勝利」を忠実に踏襲した王道ど真ん中の少年漫画です。“邪道”が幅を効かせるなか、王道の凄みを教えてくれたのが「ワンピース」なのです。
■責任感が生む好循環…の漫画。1億総“厨二病”…のリアル日本
そしてもうひとつは、この作品が、日本人の求めるリーダー像をわれわれに明快に提示してくれていることです。主人公のルフィはどんなことがあっても仲間を見捨てず、何があっても信頼し、どんな強大な敵に対しても仲間を守るため「死なせたくねェから、“仲間”だろうが!!!」と全力で立ち向かっていきます。
ところが面白いことに、ルフィは野心でぎらついたリーダーではないのです。「海賊王に俺はなる!!!」という強固で明快な目的を持って未知の大海をめざしますが、その目的のために仲間をこきつかったりはせず「支配なんてしねェよ。この海で一番自由な奴が海賊王だ!!!」と言い放ちます。
そんなルフィに仲間たちも全幅の信頼を置いています。2012年12月10日発売の週刊少年ジャンプに掲載された第691話「死の国の王」では“麦わら海賊団”のメンバーのひとり、ウソップが敵の兵隊に「お前らの船長(ルフィのこと)が逃げるのを見なかったのか!?」「はは!いい気味だぜ!お前らを置いて一人で逃げ出してんだ!」とバカにします。
これに対し、ウソップはこう言い返します。「オイオイ俺の目の前でウチの船長を侮辱するのか?」「あいつが俺たちを裏切るような奴だったらいくらか楽だったかもな」「こちとら尻尾巻いてにげだしてぇのに!!。どこまでもどこまでも際限なく俺たちの力を信じてやがるから…。しまいにはこっちが折れちまったよ!!」「だったら命の限り 応えてやらぁってなぁ!!!」
対する今の日本のリーダーたちはどうでしょう。さきの衆院選では、民主党の議員の多くは党が劣勢と分かるやいなや、そそくさと逃げ出し、中にはぬけしゃあしゃあと別の党から出馬する恥知らずも。
企業社会も同じです。自分の責任を部下に押しつけてリストラを繰り返したり、自分より優秀な部下は登用どころか「態度がでかい」だのと難癖付けていぢめたり飛ばしたりと、自分の保身しか頭にない声だけデカイ女の腐ったようなやつばかり。だから無能で作る“仲良しクラブ”ばかりが幅を効かせます。都合によって成果主義と年功序列を巧みに使い分けるズルさに我慢ならない若いサラリーマンも多いはずです。教育現場はそんな大人社会の劣化コピーと化し、異質なものは徹底排除する“いぢめ社会”となっています。
ここ数年、誰もが羨(うらや)む超一流企業に入社しながら、2、3年でさっさと辞めてしまう若者が増えているといいます。企業側では「全く理由が分からない…」と頭を抱えているらしいのですが、そんなの当たり前です。自分の保身しか考えていない威張るだけのへっぽこ&臆病者のリーダー(上司)、つまり「ワンピース」でルフィにボコボコにされるようなダメリーダーにどこの誰がついていくでしょう?
このほかにも「ワンピース」という作品には、リーダーや組織のあり方について深く考えさせるような展開やせりふが満載です。いまの内向き日本社会では、多くの人が支持するのは当然でしょう。
「漫画なんか引き合いに出してアホか」という方もおられるでしょうが、そう考えるみなさんは、1990年代はじめのバブル崩壊以降、2年以上在任した首相はたった2人だけで、2006年以降、首相がほぼ毎年変わるという世界からみれば“漫画以下”の国がいまの日本だということを良く理解しておいた方がいいでしょう。安倍晋三首相にはぜひルフィのような侠気(おとこぎ)あるリーダーになっていただきものです。(岡田敏一)
【プロフィル】岡田敏一(おかだ・としかず) 1988年入社。社会部、経済部、京都総局、ロサンゼルス支局長、東京文化部などを経て現在、編集企画室SANKEI EXPRESS(サンケイエクスプレス)担当。ロック音楽とハリウッド映画の専門家。京都市在住。
(産経新聞)
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