「風立ちぬ」めぐり喫煙論争過熱 「サンジ」や「次元」はOKなのか
映画製作からの引退を正式に表明したアニメ映画監督・宮崎駿氏の最後の作品「風立ちぬ」で、ある問題が“くすぶって”いる。作中に喫煙シーンが多く登場することから、禁煙を推奨する学会が「国際条約に抵触し、未成年に悪影響を与える」と要望書を提出。これに対し、愛煙家らでつくる団体は「表現の自由を阻害する禁煙ファシズムだ」と痛烈に批判。インターネット上でも意見は真っ二つに分かれている。日本が誇る巨匠のラスト作品を巡る議論の行方は。
■100億円突破の大ヒット
「風立ちぬ」は、第二次世界大戦で活躍した戦闘機「零戦」の設計に携わった昭和期の航空技術者・堀越二郎氏をモデルにした作品。失敗と挫折を繰り返しながらも一心に戦闘機の開発に取り組む姿を描いた。
宮崎氏の5年ぶりの新作ということもあり、7月20日に封切られてから映画館は連日盛況。9月1日には、スタジオジブリの星野康二社長が宮崎氏の引退を発表し、客入りはさらにヒートアップ。すでに約810万人を動員し、興行収入は100億円を突破した。
宮崎氏は6日、都内で会見し、「何度も辞めると言ってきましたが、今回は本気。僕の長編アニメーションの時代は終わった」と晴れやかな表情で語り、「たどり着けるまでたどり着いた。今後は長編アニメ以外の仕事をしたい」と監督業に未練がない様子だった。
「風の谷のナウシカ」(昭和59年)や「魔女の宅急便」(平成元年)など数々の“国民的アニメ映画”を発表し、「千と千尋の神隠し」(13年)では米アカデミー賞の長編アニメ賞受賞も受賞した宮崎氏。最後の作品も大ヒットと有終の美を飾るかと思われたが、思わぬところからクレームが入った。
■「国際条約に違反」「あまりに非常識」
医療関係者など全国約3千人でつくる
日本禁煙学会が8月、「
喫煙シーンが多く、メディアによるたばこ宣伝などを禁じた国際条約に違反する」とし、法令順守の要望書をスタジオジブリに提出したのだ。
同学会のいう国際条約とは「
たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(たばこ規制枠組条約)で、たばこの煙による健康や社会的影響からの保護を目的とし、2003(平成15)年に世界保健機関(WHO)が採択した。日本を始め、批准国は170カ国以上といわれている。
同学会は同作が条約のメディアによる宣伝の規定に違反しているほか、
作中で未成年にたばこをすすめるシーンが国内法の「未成年者喫煙禁止法」に抵触する恐れがあると批判。要望書の中で、「
未成年者も多く足を運ぶ同作品の子供たちに与える影響は無視できない」としている。
さらに、同学会が最も問題視しているシーンの一つは、
主人公が結核で闘病中の妻の隣でたばこを吸う場面。主人公は妻に遠慮し、外で吸おうとするが、妻の「ここで吸ってください」という一言で思い直し、手をつなぎながら紫煙をくゆらせる-という描写だ。
これに対し、同学会の宮崎恭一総務委員長は「
あまりに非常識。夫婦の絆を描くにしてもほかに表現方法があるはず」と猛反発している。
■「次元」や「サンジ」は?
一方、こうした学会の見解に対して「自分の思想を押しつける危険な要望。まるでファシズムだ」と真っ向から対立するのが喫煙文化研究会だ。
「ゴルゴ13」の作者でマンガ家のさいとう・たかを氏や、小説家の筒井康隆氏ら約30人でつくる同研究会の山森貴司事務局長は「
日本では憲法で表現の自由が認められており、憲法は国際条約に優先される」と反論。「
学会の言い分は個人的なたばこ嫌いから禁煙運動を促進したヒトラーと同じ。そんなことを言ったらたばこを吸うすべてのマンガキャラクターが発禁になる」と主張している。
ダークスーツに身を包み、くわえたばこでどんな標的も打ち抜く
次元大介(「ルパン三世」)や、必殺のキックでライバルと戦う料理人・
サンジ(「ワンピース」)など、
たばこを愛飲するキャラクターは多い。
しかし、
日本禁煙学会は両作品に対しては、「風立ちぬ」と同様の要望書は提出していない。宮崎委員長によると「
架空のキャラクターであればたばこを吸ってもゴムの体がのびても仕方ないという面はある」という。
一方で、これまでに人気少女漫画「NANA」など架空のキャラクターがたばこを吸う作品の作者にも「風立ちぬ」と同様の要望書を提出しているが、「
NANAでは未成年のキャラクターが喫煙し、読者の子供たちに喫煙習慣を助長させると判断した」という。
同学会では、複数の会員から問題視された作品を取り上げ、学会で審議をしてから要望書の提出を決定している。
今回の「風立ちぬ」のケースでは、公開直後に複数のジブリファンの会員が映画を観賞し、学会で問題提起をして要望に至ったという。
学会審議では、「
たばこがおいしいと読者や鑑賞者に思わせる」「
未成年の喫煙を助長させる」
か否か-という独自の基準で判断。これまでに「風立ちぬ」と「NANA」のほか、映画「西の魔女が死んだ」(20年)、アニメ映画「スカイ・クロラ」(同)の製作会社にも要望書を提出している。
■ネットでも火花…あの脳科学者も参戦
同学会がスタジオジブリへの要望書をホームページ(HP)上で公開したのは8月15日。一方の同研究会はすぐさま「映画『風立ちぬ』頑張れ!」と題した反論をHPにアップした。
人気作をめぐる双方の主張に対し、短文投稿サイト「ツイッター」やネット掲示板ではユーザーが“両軍”に分かれて論戦を繰り広げている。
ユーザー双方の主張は、「結核患者の近くでたばこを吸うなんて非常識」「喫煙シーンが多くて非喫煙者の自分はイライラした」という意見に対し、「
喫煙シーンをどれだけ描こうと表現の自由」「
戦中はたばこを吸うのが当たり前の時代なんだから、喫煙シーンが多いのは当然」と感情的な主張から時代考察を含む意見までさまざまだ。
双方の言い分が平行線をたどる中、脳科学者の茂木健一郎氏が8月、「宮崎監督らが精魂込めてつくった映画に対して、陳腐なイチャモンしかつけられないなんて人間としてタコだよね」「こじつけの理論を正義漢面して押しつけないでほしい」などとツイッター上で発言した。この発言は多くのユーザーに引用され、舌戦は加熱する一方だ。
スタジオジブリの担当者は産経新聞の取材に対し、「その件に関しては何もお話しすることはありません」とコメントしている。
(
産経新聞)
条約を拡大解釈したその要望には何の効力もなく、”表現の自由”の前では無力ということは大前提として、日本禁煙学会の抗議は活動の一環としてやっているものであって一意見いわば映画の感想に毛が生えたものにすぎないのですから、映画を観てそういう感想を持つ人もいるのだなと受け取ればいいだけの話です。あまり周りが熱くならぬように。
それより面白いのは禁煙学会の判断基準。
「
たばこがおいしいと読者や鑑賞者に思わせる」「
未成年の喫煙を助長させる」か否か
という判断基準を設けていながら、
サンジを例にあげて「
架空のキャラクターであればたばこを吸ってもゴムの体がのびても仕方ないという面はある」と。
それを言うなら
サンジじゃなくて
スモーカーだろとツッコミたくなるのですが、確かにあんなグルグル眉毛で、脚がグリルのように熱くなり、たまに全身が燃える人間なんかは存在しないですね。ただやっぱり、次元もサンジもその判断基準に照らせば”架空のキャラクター”かどうかということは全く関係ないような気がするのですが・・・?
未成年の喫煙に関しては東映アニメが配慮していて、アニメではサンジの年齢が原作より1歳年上に設定されていて、”サバイバルの海 超新星編”で既に20歳ということになっていましたね。また、「NANA」の喫煙描写に対する抗議文には、集英社と日本テレビがそれぞれ回答しています(下部リンク)。ジブリもこんな風にさっさと大人の回答をすれば、周りが熱くなることもなかったでしょうに。
映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて(要望と見解)
漫画、テレビアニメ「NANA」の喫煙描写に対する抗議文と要請