まずは番組説明から(※読んでも読まなくてもいいです)。
ピース又吉「ONE PIECE」を学問で読み解く「漫学」
ピース又吉と眞鍋かをりがMCを務める番組「大人番組リーグ2 漫学『ONE PIECE』を学問で読み解く!」(WOWOWプライム)が、2月16日(日)に放送される。
学問を通してマンガの人気作品を読み解く新たなエンターテインメント番組「漫学」。今回は尾田栄一郎作「ONE PIECE」(ワンピース)がピックアップされる。哲学者の萱野稔人と生物学者の長沼毅が、それぞれの視点から作品を解説。「ONE PIECE」の大ファンというアンジャッシュ児嶋もゲスト出演する。
収録後の記者取材会で、又吉は「マンガと学者さんは結びつかないと思っていた。でも『ONE PIECE』はもう1つの世界を細かいところまで描ききってるから、僕らの生活してる世界の学者さんの見方が適用できる」とコメント。「学生時代は友達が多いほうではなかったが、大変な冒険をする上で仲間は大切なんやな、と先生の話を聞いてわかった。仲間を作らんかったら滅んでしまう(笑)」と作品への理解を深めた様子だ。
さらに「人間の内面が描かれているマンガが好き。『ONE PIECE』も登場人物がそれぞれ葛藤している。僕は主人公が破滅していくマンガを読むことが多かったが『ONE PIECE』は葛藤を乗り越えていくので痛快やなと思う」と明かす又吉。同じくMCでタッグを組んだ眞鍋は「ONE PIECE」の読者ではないものの「こんなにも深いテーマがあるのなら読みたい」と語り、これを受けて児嶋も「ファンタジーとしてしか思ってなかったのが恥ずかしい。歴史が学べるし、現代社会も投影されていて、大人が読んでも勉強になる。マンガじゃなくて教科書!」と力説した。
この「漫学」は2月9日(日)にスタートするWOWOWの実験枠「大人番組リーグ2」の一環。「大人番組リーグ2」では毎週日曜23時に全13本の番組が放送され、視聴者投票の結果、上位4本がレギュラー化の権利を獲得する。又吉は「真剣に学問を研究してきた先生たちが語れる要素がマンガにある、ということが面白い。『ONE PIECE』が好きな人はもちろん、眞鍋さんのように『ONE PIECE』に距離を取ってきた人にも観てほしい」とレギュラー化へ向けてPRした。
WOWOWプライム 2014年2月16日(日) 23:00 ~ 23:35
<出演者>
ピース又吉 / 眞鍋かをり
ゲスト:アンジャッシュ児嶋
学者:長沼毅(広島大学准教授) / 萱野稔人(津田塾大学教授)
(お笑いナタリー)
大人番組リーグ:「漫学 『ONE PIECE』を学問で読み解く!」 研究者が人気マンガを分析
WOWOWは毎週日曜午後11時に既存のジャンル以外のエンターテインメントを模索する実験枠「大人番組リーグ」の第2シーズンをスタートさせた。それぞれ異なるタイプの番組全13本が、将来のレギュラー番組化を懸けてしのぎを削る。各番組は放送後にウェブ上で集計される視聴者からの投票結果によって4番組がレギュラー化の権利を獲得できる。リーグのチェアマンは俳優の八嶋智人さん。そして2013年のミスキャンパスたちで構成された「大人キャンパズガールズ」がアシスタントを務め、毎回豪華ゲストも出演する。16日に放送される第2弾「漫学 『ONE PIECE』を学問で読み解く!」を担当したWOWOW制作部の遠藤裕プロデューサーに、その魅力を聞いた。
−−番組の概要と魅力は?
この番組では、マンガ作品を一つ取り上げ、2人以上の研究者の方にその専門分野ならではの視点から深く読み解いていただきます。多くの人が読み流しているような部分の深掘りや、まったく想像もしなかった見方を体験できる、今までのマンガの読み方が一変する知的エンターテインメント番組です。今回は「ONE PIECE(ワンピース)」を、政治哲学と生物学の視点から読み解きます。
−−番組にするときに一番に心掛けたことは?
取り上げるマンガ作品を読んだことがない方がご覧になっても面白い番組にすることを心掛けました。とはいえ、初回ですし、なるべく多くの方に興味を持っていただくために、累計発行部数が3億部を超えるなど、非常に多くの読者を獲得している「ONE PIECE」を取り上げることにしました。
−−番組を作る上でうれしかったこと、逆に大変だったエピソードは?
集英社の週刊少年ジャンプ編集部の協力が得られて、「ONE PIECE」を取り上げられるということがまずはうれしかったです。レギュラー化した際に読み解きたいマンガ作品はたくさんありますが、最初に取り上げる作品として、この超人気作が読み解けるというのは、番組にとって最高のスタートができたと思っています。あと、やりたかったけれどできなかったコントが、勝手に次回予告というカタチで番組の後半に登場します!
−−番組の見どころを教えてください
今回「ONE PIECE」を読み解いていただいた哲学者の萱野稔人先生と生物学者の長沼毅先生のお二人とも、ご自身の専門分野ならではのユニークな視点で、細部から作品の全体構造までを語るという、非常にダイナミックなお話をしていただけました。それを聞き出すのはMCのお笑いコンビ「ピース」の又吉直樹さんとタレントの眞鍋かをりさん。そして、ゲストで「ONE PIECE」愛読者のアンジャッシュ・児嶋一哉さんですが、「ONE PIECE」をまったく読んだことがないという眞鍋さんが、どんどん興味を引かれていく様子にもご注目ください。
−−視聴者へ一言お願いします
視聴者の皆さんの投票によってレギュラー化が決まります。このマンガ作品をこの学問分野から読み解いてほしい!など、レギュラー化に向けたリクエストやご感想をぜひお寄せください!
(毎日新聞デジタル)
というわけで、WOWOWに加入していなくても放送後WEB上で無料配信されているので観てみました。▼視聴は
こちら(視聴期限不明、5月まで?)
前出の出演者のコメントから『ONE PIECE』各篇にある”裏テーマ”を掘り下げたものなのかと思って観ていたら、その実体は主に『ONE PIECE』を話のネタに
雑学を語る番組でした。
哲学者の萱野教授はまず政府に海賊行為が免除された”
王下七武海”は現実世界にも当てはまる事例がいくつもあると指摘。大航海時代のイギリスを例にして、ファンタジーの中にもリアルな秩序維持の論理が存在すると結論づけるのですが、大航海時代のイギリスの説明は少し実際とは異なるものでした。
世界の海を支配するため、秩序を守るため「実際にイギリス政府は海賊に司令官の地位を与えていた」と言うのですが、これは海戦に
私掠船を自国の戦力として投入していたという話です。(たぶん意図してないと思いますが)確かに、マリンフォードの頂上決戦をイメージすると近しいかもしれませんが、王下七武海のモデルになっている、国王から私掠特許状を与えられた
私掠船(プライベーディア)はまるで同じものではありません。まず、
私掠船は元から海賊とは限りませんし、掠奪・攻撃の対象は海賊ではなく”敵国の船”です。
”王下七武海”のロジックは、『羊たちの沈黙』のレクター博士みたいな”毒には毒を”というものだと思うのですが、
私掠船は正確には、国が民間の船を傭兵にして敵国を攻撃させるものなので随分と違います。
この後、なぜか「東インド会社」や「船長の逮捕権」の話になって、海は過酷な世界なのだーと言われてもうわけワカメ。
生物学者の長沼准教授は「
海王類は存在するか?」という質問に、陸上での生物の巨大化は自重のせいで限界があるが、海中ならば浮力があるため巨大化は可能と説明。まだ未開拓の深海には未知の巨大生物がいる可能性を示唆していました。
次に「
魚人は存在するか?」という質問(ちなみにどちらも児嶋さんの質問)には、ヒトは魚から進化してきた生物なので、
先祖帰りして水中で呼吸できる機能を獲得する可能性はあると説明。魚人は進化した人間の未来の姿かなんて話になるのですが、先祖帰りとは見た目上、両親からは遺伝せずに祖父母より前の代から遺伝する隔世遺伝のことで、これは個々の遺伝子は正常に機能しているものです。それに対して
魚に固有の遺伝子なんてものはヒトの進化の過程で本来の機能は失われていて、その機能が先祖帰りするなんてことはあり得ません。それは誰もが知っている突然変異の話です。
この先祖帰りの話と『ONE PIECE』の中でデンが魚人族の子供が多様なのは、魚人族が「
古い記憶を遺伝子に宿している」からという説明につなげます。魚人族はそうなのでしょう(ドン!!
この後、ヒトゲノム情報の中で「
ジャンクDNA」と呼ばれている領域の説明をして、ヒトにも未知の可能性が眠っていると指摘するのですが、このあたりの解説もかなりお粗末なものでした(というか、かなり誤解している)。
「遺伝情報の中で分かっているのは10%もない、残りの90%以上は未知」と言うのですが、これは全くの間違いです。ヒトのゲノム(生物の遺伝情報の総合体)はヒトゲノム計画によって、全てのDNA配列は解析されており、その構成は次の通りです。
(画像:ウィキペディア)
そもそも、「ジャンクDNA」とは”遺伝子ではない”配列全てを指して雑に付けられた名称で、
それが何の役割を持った配列なのかということは概ね分かっています。その領域がゲノム全体の約97%を占めており、逆に言えば生物で習う、タンパク質をコードしている”遺伝子”はたったの2%しかありません(この狭義の遺伝子の数は約2万個)。遺伝子から翻訳されるタンパク質が各々実際にヒトの体を作り、あるいは体の中で機能しているのですが、それ以外の配列は半分近くが
トランスポゾンと呼ばれるものに関連した配列です(円グラフのLINEs、SINEs、transposons)。詳しくは説明しませんが、これは生物進化の起爆剤になるDNAの仕掛けなのですが、ヒトなどの高等な動物ではこの機能は失われていて、進化の過程の残渣と言えます。とは言っても、魚人族の例のように先祖の遺伝情報が保存されているわけではありません。そして4分の1が
イントロン(説明割愛。一応役割はあります)。残りはゲノム複製時のエラーの蓄積や遺伝子の発現調整などをする配列で、
これらの配列に遺伝子のような機能はありません。
(画像:ウィキペディア)
約2万個あるタンパク質をコードした遺伝子の機能も、そのほとんどは役割が分かっています。機能が全く不明のものもたくさん残っているのですが、ヒトの体の中で実際に機能しているものなので、とんでもないものではないです。ちなみに、長沼准教授は
遺伝子とゲノムのことを終始、混同していました。遺伝子は先に示した通り、ゲノムのごく一部の遺伝情報であって、ゲノムではありません。逆も然り。
こういった前提はさておき、長沼准教授は”
悪魔の実”は
ヒトの未知な遺伝子を覚醒させて不思議な能力を与えている、
『ONE PIECE』の世界では生物工学がもの凄く進んでいる可能性を指摘。「
ピカピカの実」の実現例として
光るマウスを紹介しています。
これはクラゲ由来、つまり外来の緑色蛍光タンパク質(GFP)をマウスに導入したものなのですが、この蛍光タンパク質は紫外線で励起しないと光らないし、マウスはただぼんやりと光るだけです。ピカピカ…ェ?
ただ、実は私も
黄猿の誕生日記事で
光るサルを紹介して、黄色蛍光タンパク質(YFP)をサルに導入すれば黄猿ができるね、なんてことをネタで書いているので、あんまり人の事言えないんですよねw
続けて、「
マネマネの実も実現可能か?」という質問に対して、長沼准教授は真似する相手の遺伝情報さえコピーすれば、瞬間的は無理にせよ、同じ顔と身体になることができると回答。具体的には?と聞かれて、
iPS細胞を遺伝子操作して人体のパーツを作り、それを身体に移植すると言うものだから、出演者達がドン引きしていましたw
これは説明が足りないので解説すると、真似する相手のiPS細胞(人工多能性幹細胞:体細胞から文字通り人工的に様々な細胞になり得る幹細胞へ誘導した細胞)から臓器を作って移植するということです。そのまま移植すると拒絶反応が起きるので、そうならないように予め遺伝子操作が必要というわけです。しかも、まず初めにiPS細胞を作製しないといけないので、”マネマネの能力”で相手に右手で触るとき、相手の体細胞を奪っていたと。iPS細胞はガン化しないか見きわめる為に作製後、品質のチェックが必要です。これをせずに体に移植するとガンになる恐れがあります。また、実験室で細胞から臓器を作ることは現在の技術を持ってしてもまだ不可能なことです(膜状の組織なら作ることは可能)。遺伝子が同じでも環境が違えば同じ形になることはないでしょう。この点はさらに言えば、正常に発生した場合でも、
ゲノムが全く同じでも、外見等が全く同じにはなりません。これはエピジェネティクスと言うのですが、専門的な話はともかく、一卵性双生児でも見た目が少し違ったりするのは、これが原因です。iPS細胞から”マネマネ”の能力を実現するためにはこれらの難題を全てクリアしなければなりません。というか移植手術も自分でしなければなりません。
なんて酷な、そして面倒臭いことよ!w
もうね、
”不思議な実”でいいんです。だってファンタジーですもの。
でも、番組の続きですが、人類の「大飛躍」(※人類学では5万年前にヒト属の知性の飛躍的進化があったとされている)の謎は”ヒトヒトの実”が関係している、つまりは
5万年前に人類は”ヒトヒトの実”を食べて人と成ったのだーとか、
生物学的ルフィの倒し方はゴムを劣化させる紫外線を照射することといった内容は、空想歴史や空想科学らしくて面白かったです。ただし、この番組きっかけでワンピースを読もうと思う人はまずいないでしょ、眞鍋さん。
結局、この番組を観た感想で何が言いたいかというと、
歴史と科学は正しく伝えなきゃだめということです。MAJIDE。
話のついでに”遺伝子組み換え”食品って、遺伝子工学を学んでいない理解していない人、つまりは一般の人が、遺伝子工学者の話も聞かずに一体何を妄信しているのか、よく分からない字面のイメージだけで「食の安全ガー」と声高に叫ぶ人が沢山いるんです。これを読んでいるあなたもそうかも。ノーランドが嘆きますよ。
正しい歴史認識と言ってファンタジー(妄言・虚言)を押し付けてくる人は言語道断ですよ(ぁ