海外で規制される日本のマンガは有害か?
◆デスノートの影響で自殺
クール・ジャパンの名のもと、日本のアニメや漫画は海外で大人気のように報道されがちではあるが、現状はだいぶ違っている。
2013年4月25日、ロシアの父母団体が『デスノート』が子供たちに悪影響を与えているとして、ロシア国内で発禁処分するようにプーチン大統領に訴えた。きっかけとなったのは、同年2月20日に起きたウラル地方のエカテリンブルクで15歳の少女が13階の自宅窓から飛び降り自殺した事件だ。
この少女の部屋には「もう生きていけない」との遺書と、『デスノート』の単行本が4冊残されていた。自殺の原因は『デスノート』にあるのではとの報道がされ、警察当局が関連の有無について調査するにまで至った。さらに父母団体は公開書簡の中で『デスノート』が子供に死への関心をあおり心の発育に悪影響を及ぼすと主張し、『デスノート』の販売を規制するよう求めたのだ。
◆中国では発禁処分に
同じような事件は過去にも起きている。2007年10月3日にベルギーで『デスノート』に触発された猟奇殺人とみられる事件があり、販売規制の声が世間を騒がせたケースもあった。
ロシアでの訴えは認められるかどうかまだわからないが、中国では2007年に当局が青少年への悪影響を懸念して『デスノート』を発禁図書にしている。中国においては、『デスノート』は「恐怖系非合法出版物」というおどろおどろしいカテゴライズに分類されてしまっている。
まだ『デスノート』に触発された殺人事件は発生していないものの、「デスノートごっこ」が小中学生の間で大流行を見せ、イジメ問題として大きなニュースとなっている。2007年5月には甘粛省蘭州市の文化査察隊が電話を受け取ると、まだあどけない声で「オレは死神だ、『デスノート』の取り締まりを止めないとおまえらを呪い殺すぞ!」と脅す珍事件も発生。青少年への強い悪影響が浮き彫りとなった。
このように日本の倫理観では問題ないと思われているものであっても、海外では発禁処分となる可能性もあるのだ。
◆『NANA』もアメリカでは18禁
日本で大ヒットした恋愛青春漫画『NANA』。もちろん海外に向けても発売されているが、これもどうやら有害図書のレッテルを貼られてしまったようだ。
例えばアメリカでは『NANA』の単行本は、なんと基本は16歳以上向け。さらに収録されている内容に応じて巻ごとに細かく対象年齢が設定されており、マリファナを吸うシーンが出てくる11巻は18歳以上向けとなっている。以前は、16歳以上向けの漫画雑誌『Shojo Beat』に連載されていたが、今は掲載を止めてしまった。この連載中止は、苦情などの対応に苦慮していたためとの噂もある。
このことからわかるように海外において『NANA』は少年少女向け漫画ではなく、成人向け漫画として捉えられているのだ。日本での『NANA』のメイン購買層が中高生であることを考えると、これは日本人としては、なかなか理解しがたい状況である。米国で販売する際には、暴力や性表現に対する規制が厳しいため、独特の苦労や工夫が必要になってしまうのだ。
◆『ドラゴンボール』で肌の色を変える理由
さらに日本の国民的人気漫画『ワンピース』には、なぜか黒人が出てこないのも有名な話だ。褐色の人間や肌が白い人間は出てくるが、たとえば『ドラゴンボール』のミスターポポのような黒い肌のキャラクターは出てきていない。これは海外で発売することを念頭に置いているからだと指摘する声もある。欧米では黒人のキャラクターは、描き方によっては人種差別として捉えられてしまうからだ。 『ドラゴンボール』のミスターポポも、北米版の子ども向けバージョンでは青色になっていて、「真っ黒な肌の色は差別的だ」「神様に仕えているという設定が奴隷時代を連想させる」「過剰に反応しすぎ」と、ネットでは論争を呼んでいる。
視聴者としてはなんとなく物足りなさを感じてしまうが、制作側としてはやむを得ないのだろう。
◆漫画に厳しいアメリカの検閲
桂正和原作の恋愛漫画の金字塔『I's』は海外でも人気があるが、アメリカでは規制の対象となり、女性の乳首が★マークで隠されたことがある。この『I's』と言えば登場人物の葦月伊織や秋葉いつきなど、美少女たちのセクシーシーンが見どころだけに、規制されてしまうと魅力は半減と言ったところだろう。
こうした漫画への規制に対して、不満を抱いている海外ファンたちもいる。たとえば、少し前にDel Rey Booksという海外の出版社から刊行された海外版『エアギア』の第1巻では、レイプを連想させる台詞を削除していた。しかし、アニメ関連の大手掲示板でそのことが話題になると、抗議の書き込みで掲示板が埋め尽くされてしまった。するとDel Rey社のディレクターであるダラス・ミダウ氏が掲示板に登場し陳謝。「増刷分からオリジナルに忠実な翻訳に変える」と書き込むと、同社は「ファンの声を聞く版元」としてマニアの心を掴むことになった。こういうケースはまれだが、海外のファンたちも、いきすぎた自主規制を不満に思っているに違いない。
作品によっては、胸にタオルを巻かれてしまったり、お尻にパンツを履かされてしまったり、アメリカの検閲は厳しい。日本の漫画やアニメが海外で受けていると言っても、海外ではその根底にある文化やストーリー性でなく、雰囲気だけしか好まれてないんじゃないかと思ってしまう。
(ブッチNEWS)