【海外のマンガ事情】スペインで日本のマンガが成功している理由とは
お隣のフランスに負けず劣らず、「マンガオタク」が急増中のスペイン。「エクスポ・マンガ」(マドリード)、「サロンデマンガ」(バルセロナ)など、年々コミック見本市の数も増え、元来のスペイン人の仮装好きも手伝って、コスプレイヤーも急増。出版されるコミックのジャンルも多様化してきた。そんなスペインマンガ市場を、スペイン最大の出版社プラネタグループのマンガ出版の老舗・デアゴスティーニ出版社出版部部長ダビッド•エルナンド氏(以下、D氏)に聞いた。
D氏「スペインでは長引く不況の中、人々はマンガの購入も“確かなもの”にかける傾向があります。かつては多くの出版社が実験的に日本の様々なマンガの出版を試みていましたが、現在はそのような傾向は見られません。良いシリーズものは相変わらず売れており、逆に一時期は人気のあったような話題作でも骨子のしっかりしていないものは販売数が悪くなっています。
スペインでは常にテレビアニメからマンガのヒットが生まれる傾向があります。ことに地方テレビでは人気番組が何度も再放送されることで確実に新しいファンを獲得しています。“少年マンガ”はスペインのコミック市場で一番売れているジャンルですが、読者は少年青年だけでなく、女子が多いのも特徴です」
――スペインで一番人気のマンガは?
『ドラゴンボール』(鳥山 明)、『ONEPIECE』(尾田栄一郎)
D氏「日本人には“何を今更”と言われるかもしれない、この2冊。1992年に当出版社から発売して以来20年を超えるロングベストセラーの作品。1995年に、デアゴスティーニ社は、スペイン市場で先駆けて単行本タイプも発売(ちなみに単行本はスペイン語でも“tankobon”と呼ばれる)。発売20周年を記念した2012年には世界唯一の『ドラゴンボール リミテッドバージョン』も出版され、息の長いファンたちを喜ばせています。89年にテレビ放送が始まって以来、アニメで成功→コミックが売れるという好例です。2015年には『ドラゴンボールZ』が単行本スタイルで約250ページ、全カラーで12.75ユーロで発売予定。日本の単行本より高いのはもちろん理解していますが、全カラーで200ページを超える量ですので、こうした価格設定になります」
――スペイン未発売で、ブレイクしそうなマンガは?
『ドラゴンボール』のフルカラー版、『ヴィンランドサガ』(幸村誠)
D氏「『ヴィンランドサガ』は11世紀の海賊たちを描いた作品。この視点も珍しく、ヨーロッパの歴史ものが日本から逆輸入されたわけですが、“海賊”も世界共通でファンがいるジャンルなので当たるでしょう。とてもよく描いていて、スペイン人がハマるのは簡単に予想されます。“サムライ“や“浪人”といった日本の典型的テーマから一歩出て注目されると思います(両方とも今年の末に同社から出版予定)」
――スペインでも少年マンガのスーパーヒーローのジャンルがやはり人気のようですが、それ以外のジャンルで期待されるマンガはなんですか?
D氏「『ふくふくふにゃ~ん』(こなみかなた/講談社)です。本作は、通常のマンガファン以上のファンの獲得が期待できます。スペインのコミック市場はまだ若年層のもので、大人のファンが厚いのはマーベルコミックなどアメリカのコミック(アメコミ)のジャンル。でも、こうした動物の癒し系もユニバーサルなので、これまでコミックにハマらなかった人たちにウケると思います。スペイン語タイトルは『La abuela y su gato gordo(おばあちゃんとその太った猫)』(これも今年中に出版予定)」
――日本で人気だったのにスペインでは不評だったマンガはなんですか?
D氏「『家庭教師 ヒットマン』『トリコ』『魔人探偵脳噛ネウロ』など沢山ありますよ。前述したように、スペインではアニメで成功してからコミックが劇的に売れるという図式なので、こうした作品はうまくいきませんでした」
D氏「スペイン人のコミック作家はもちろん存在しますが、彼らは成功するとフランスやアメリカなどで出版をするケースが目立ちます。スペイン国内はまだ作家を育てるというよりも、売れているもの、売れそうなものを日本を始めとした外国から輸入している状態です。
我が社では日本のコミック市場や出版社とダイレクトにマーケティングしながら、これぞというものを翻訳していく形をとっています。スペイン語に訳されたコミックは南米市場にも出向くことになりますが、南米は巨大な市場でありながら、読者数はスペインの30%ぐらいにしか満たないというデータもあり、まだまだ発展途上中。コミックの世界もデジタル化が進んできているので、その意味でもスペイン語圏へのコミックの浸透を期待したいところです」
(ダ・ヴィンチニュース)