『ONE PIECE』公式ポータルサイト
ONE PIECE.comの会員ページで不定期連載中の「尾田栄一郎のらくがきコーナー」。連載第14回(9月1日更新)では、同サイトのコンテンツに
「フィギュア」ページがオープンした話題に触れるついでに、
ここ数年のフィギュア価格の値上がりの理由について書かれています。
最近のフィギュアは高くなってきて文句言った事あるんですけど、世界の労働の法律が変わりまして、どうしても一体一体の単価が高くなってしまうんだそうです。むしろ、製作者側にまっとうな賃金が払われるようになったんです。大変なんだね。<尾田>
これによれば、
世界の労働賃金が上がったため、フィギュアの価格が上がったとのこと。少年誌が読者向けに発表する内容は詭弁の場合があるため、疑り深い私は自分なりに少し調べてみました。
Q1.フィギュアの価格は本当に上がっているのか?
まず、そもそもフィギュアの価格は本当に上がっているのかと。このブログの読者であれば、きっとご存知のことでしょう。2014年に消費増税が行われたことを抜きにして、フィギュアの税抜き定価を年次で比較すると下表の通りです。都合上、2010年から現在まで続いているワンピースフィギュアシリーズを比較しています。単位は円と%。
シリーズ |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
P.O.P |
5250-7140
(6,195) |
5250-7560
(6,405) |
6090-7980
(7,035) |
7350-8800
(8,075) |
7200-8800
(8,000) |
7400-9950
(8,675) |
2010年対比 |
100 |
103.3 |
113.5 |
130.3 |
129.1 |
140 |
超スタイリング |
450 |
450 |
450 |
500 |
500 |
600※ |
2010年対比 |
100 |
100 |
100 |
111.1 |
111.1 |
133.3 |
ワンコレ |
200 |
200 |
200 |
250 |
250 |
250 |
2010年対比 |
100 |
100 |
100 |
125 |
125 |
125 |
アニキャラ |
250 |
250 |
285 |
285 |
348 |
397 |
2010年対比 |
100 |
100 |
114 |
114 |
139.2 |
158.8 |
ZERO |
1796-2494
(2,145) |
1788-2992
(2,390) |
2195-3292
(2,743) |
2394-4190
(3,292) |
2782-3776
(3,279) |
3220-4471
(3,845) |
2010年対比 |
100 |
111.4 |
127.9 |
153.4 |
152.8 |
179.2 |
P.O.PとフィギュアーツZEROは通常サイズ(大型キャラクター、チョッパー等を除く)についての価格帯とその中間値。超スタイリングは通常版の価格です(※2015年の600円が通常定価かは不明)。見ての通り、
A. ここ数年でフィギュアの価格は着実に上がっています。
(フィギュアの価格上昇率:2010年比)
現在のP.O.Pの価格帯は約9千円で、栄ちゃんがリクエストして断念したという美女二人付きのセニョール・ピンクのP.O.Pについて、お腹の分多めに見積もってセニョールを1.5体としても4万円にはならないと思うのですが…。
Q2.世界の労働賃金は本当に上がっているのか?
まず、言及されている「世界の労働の法律が変わった」という点は?(はてな)です。それは置いといて、ワンピースフィギュアの生産工場は現状ほぼ100%が中国にあるため、影響があるとすれば
中国の労働賃金でしょう。結論から言うと、中国は労働賃金の上昇を推進しており、
A. 中国の労働賃金は毎年上がっています。
最低賃金上昇率 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
2010年対比 |
100 |
116.7 |
133.3 |
151 |
168.8 |
189.6 |
上表は中国(上海)の最低賃金の2010年比で、2015年でほぼ2倍近くになっています(
マークラインズ株式会社調べ)。この政策動向は中国に限らず、労働賃金が低いアジア諸国のトレンドになっているようです。
Q3. フィギュア価格が上がった原因は中国の労働賃金の上昇か?
フィギュア製品の製作費のうち、人件費がどれほどの割合を占めているのかは一介の消費者が知る由もありませんが、一般的に言って、作業工程数が多ければ、それだけ動員する人の数が多くなるため人件費がかさみます。つまり、
塗りやパーツなどの情報量が多いフィギュアほど人件費の割合が高いと言えるでしょう。また、中国で作っている以上、中国の人民元と日本の円のレートは製作費に影響を及ぼすもう一つの大きな要因でしょう。
為替 |
2010 |
2011 |
2012 |
2013 |
2014 |
2015 |
人民元(円) |
12.58 |
12.04 |
12.4 |
15.86 |
16.12 |
17.43 |
2010年対比 |
100 |
95.7 |
98.5 |
126 |
128.1 |
138.5 |
アベノミクスの効果なのかはつゆ知らず、円安で人民元が2013年から約30%程高くなっています。ワンピースコレクションシリーズと超スタイリングシリーズが2013年中にそれぞれ前年比で25%と11%の値上げに踏み切った主な原因はおそらくこちら(円安)でしょう。両シリーズは塗装箇所やパーツが少なく、製作費に対しての人件費の割合が少ないと考えられます。
(フィギュアの価格上昇率と最低賃金(円変換)上昇率:2010年比)
一方、リアル系フィギュアシリーズのフィギュアーツZEROとP.O.Pは2013年以前から毎年価格が上がっており、中国の労働賃金上昇の影響を強く受けていると考えられます。元々、高価格帯のP.O.Pは利幅が大きいと思われ、価格上昇率は低いですが、量産・低価格路線でスタートしたフィギュアーツZEROはより強く影響を受けたようです。ワンピースコレクションと類似したコレクションフィギュアシリーズのアニキャラヒーローズの価格上昇率が高い理由は、ワンピースコレクションが樹脂肌で塗装箇所がほとんど無いのに対して、アニキャラヒーローズは塗り肌で塗装箇所が多く、人件費の割合が大きいためかと思われます。
結論、フィギュアの価格が上がった主な原因は、
A. 製作費に対する人件費の割合が大きいリアル系フィギュアは中国の労働賃金が上がったから。製作費に対する人件費の割合が小さいコレクションフィギュアは中国の人民元が高くなったから、だと思われます。
そもそも、中国が世界の工場に成り得たのは人民元を低価値にする中国の政策があったからです。労働賃金が上がり、人民元も高くなれば、中国に工場を置くメリットはありません。このような危機に対して企業の脱中国路線は進められており、フィリピンやベトナムといった他のアジア地域に工場拠点を移したり、はたまた日本国内に工場を建設するケースも出てきています。しかし、作業工程が多ければ、工場の数もそれだけ多く、中国にある工場拠点をどこか他に移すということは簡単なことではないでしょう。したがって、
中国の労働賃金が上がり続ければ、P.O.PやフィギュアーツZERO等のフィギュア価格は今後も上がり続けることでしょう。
このような現状に対して、フィギュア製造・販売を手掛けるグッドスマイルカンパニーの安藝貴範社長は次のように語っています。これをこの記事の結語として代えさせてもらいます。
例えば極端な例ですけど、フィギュアが5万円になったとして、それだけの価値が継続的にあるとお客様が見てくれるのかどうか。
これが『スター・ウォーズ』だったら、何十年経っても人気があるでしょうし、仮にフィギュアが5万円でも、それは5年後も5万円の価値があるものとして自分が納得できます。しかし、じゃあ今流行っているアニメのフィギュアを5万円で買ったとして、5年後も自分がその作品を愛しているのか? 5年後の5万円の価値を担保できるかどうかがわからないわけです。
フィギュアって、アートとキャラクター商品の間にあるものなんです。造形としての美しさはあっても、果たして価値が継続するのか。そういうところは改めて問い直していかないといけないと思いますね。
(マイナビニュース「フィギュア製造の現状と課題、そして国内工場新設の理由 - 安藝社長に聞くグッドスマイルカンパニーの視点【前編】」)
フィギュアって、"コレクション"するものじゃ無くなるんじゃないでしょうか。安価なプライズフィギュアに対して、市販フィギュアは量産を捨てて高級路線で進めて欲しいところです。
【メガハウス】 「P.O.P」シリーズを造る7人の原型師 【POPs!】
【Hyper Hobby 5月号】 メガハウス取材 ~P.O.Pが出来るまで~