「最初に話を聞いた時から、舞台化にはまったく抵抗がなかったですね。漫画的な奇想天外な世界は、歌舞伎にピッタリでしょうし」と、世間の驚きとは裏腹に、漫画と歌舞伎の親和性を語る猿之助。確かに、同時代の才能や、最先端の表現を常にどん欲に取り入れてきた歌舞伎にできないことはないだろう。原作の魅力を聞くと「まず作劇方法が巧みなんだと思います。常に”次はどうなるんだ?”と、先が気になる展開になっている。そして、昨日の味方は今日の敵、今日の敵は明日の友という、日本人の情緒を実にうまくくすぐる要素が入っている。手と手を取り合って仲間が増えていき、一つの希望に向っていく、義理人情の物語でもありますよね」という明解な分析が返ってきた。
「そうじゃないと原作のキャラクターが成り立たない。名ぜりふもそのまま使いますし、言いづらかろうが、そこは原作のイメージを崩したくないですから。例えばルフィは、どんな偉い人に対しても”お前”と言いますよね。それを”そなた”と言ったとたんにルフィじゃなくなるじゃないですか。あと彼だけは”殺す”という言葉を絶対に使わない。頂上決戦でも誰かを惨殺するということは決してないんです。キャラクターが発する言葉は、その精神とともにあるんですよね」
「もしかしたら、よく知っている方にとっては、まどろっこしいところがあるかもしれません。でも私たちは、普段、歌舞伎に親しんでいる方たちに”日本には、こんなに素晴らしい物語があるんですよ”っていうことを知らせることに目的を絞りましたから。”原作ファンも、原作を知らない人も”って両方を追うと、どっちつかずで収集がつかなくなるんです。歌舞伎に『ONE PIECE』の読者を引き込むのではなくて、歌舞伎ファンの皆さまに『八犬伝』や『三国志』や『水滸伝』(ブログ注:スーパー歌舞伎および二十一世紀歌舞伎で題材にした作品)に続く壮大な物語があるってことをわかってほしい。これが僕らの、尾田栄一郎先生に対する仁義の返し方だと思う。素晴らしさを知っている方はすでに多くいらっしゃるでしょうけど…。まぁ、『ONE PIECE』啓蒙運動ですね」
一同: <間髪入れず>大好きです!!
隼人: たぶん今回の座組の中でも、一番「ONE PIECE」好きの3人かもしれないです。
福士: コミックを一巻から全部持っているとか、そういう濃いファンだよね(笑)。巳之助さんなんて、説明役ですからね。
巳之助: 稽古中、出番のない場面にお手洗いとかで席を外していたりすると、猿之助兄さんに”みっく〜ん!どこ〜?”って呼ばれるんですよ。”何ですか、何ですか?”って行くと、”このキャラって、こんなしゃべり方する?”とか”こいつはこいつに勝ってもいいの?”とか聞かれて。
福士: もはや”方言指導&時代考証”担当(笑)
福士: でも、ホント、世界観が歌舞伎に合ってると思いましたね。人情モノであり、エンタメであり、何より作者の尾田さんの生み出すせりふってカッコいいじゃないですか。そのせりふの強さが、歌舞伎だとより引き出されるところがあって。
巳之助: 確かに少年漫画って、戦闘中の技が決まった瞬間とかが大きなコマの見せ場になったりするんですけど、「ONE PIECE」の場合は、技を決めた後にせりふを言うシーンで大ゴマが”ドン!”ってくるケースが多いんです。あれって歌舞伎でいうバッタリ(演技を強調させる時にツケ打ちに合わせて決める歌舞伎ならではの演技法)ですからね。
隼人: それに「ONE PIECE」みたいな戦闘シーンって、実写だと、よほど予算を掛けないと難しいと思うんですけど、歌舞伎なら、実写とは別のやり方で、迫力とかリアリティーを表現することができますからね。
横内: 僕は今回のお話をいただいてからです。どこが芝居になるかを考えながら読んでいきました。
右近: 僕も読んだことがなくて。今年の初めに横内さんと『〜水滸伝』の打ち合わせをした際、『ワンピース』の話もしてくださったんです。
横内: ああ、そうでしたね。
右近: その時はすでに読了されていて、51〜60巻の”頂上戦争編”を取り上げる、と。「白ひげは”弁慶の立ち往生”みたいなんだよ」とか、漫画を知らない僕にいろいろ説明してくださって。それで、読まなきゃと(笑)。読んでいる途中で、頂上戦争編を選んだ理由が分かりましたよ。ルフィたち麦わら一味が全員そろったところから始まるし、そして何より、物語が面白くてドラマチックですよね。
横内: 「ONE PIECE」には、もともと歌舞伎的な要素がたくさんあるんですよ。古くからの日本的な義理人情が全編を通して描かれているし、白ひげなんてまるで歌舞伎のキャラクターだよね。
右近: 本当にそうですね。
横内: それに、「ONE PIECE」には、人間の気持ちを信じるというポジティブなメッセージがあるでしょう。そこがスーパー歌舞伎好みと言うか、澤瀉屋一門の”お客さまを楽しませて、明日の元気にしてもらう”という精神とも重なっていると思うんですよ。