スーパー歌舞伎II『ワンピース』
原作:尾田栄一郎
脚本:横内謙介
演出:横内謙介、市川猿之助
スーパーバイザー:市川猿翁
製作:松竹
平成27年度(第70回)文化庁芸術祭参加公演
ストーリー解説
舞台は、海賊王と呼ばれた男、ゴールド・ロジャーが遺したという財宝「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を求めて海賊が海を割拠する大海賊時代。海賊に憧れる少年ルフィは海賊・赤髪のシャンクスと出会い、本物の海賊の粋と強さを知る。おまけに、ゴムゴムの実という悪魔の実(食べるとカナヅチになるが特殊な能力が得られる不思議な果実)を食べてゴム人間になる。立派な海賊になって再会することをシャンクスと約束したルフィは、10年後、仲間と船を手に入れ、海賊団・麦わらの一味として、その名を世間に轟かせるまでに成長していた。
ストーリー解説
次の島に渡るためには船に特殊なコーディングをする必要だと分かったルフィとその一行は、航海の途中で出会った人魚のケイミーと魚人のはっちゃんの案内で、コーティング職人がいるシャボンディ諸島に上陸するが、ケイミーが人攫いに攫われてしまう。この島は奴隷売買が政府に黙認されており、人魚は非常に価値が高いのである(最低相場は7000万ベリー)。人間オークションにケイミーが出品されることを知った麦わらの一味は、ケイミーを競り落とそうとするが、天竜人チャルロス聖が一味が用意できる倍以上の額で競り落としてしまう。遅れて駆けつけたルフィがお構いなしにケイミーを奪還しようとしたため、はっちゃんが制止しようとするが、はずみではっちゃんが魚人であることが人々にばれてしまう。飛び交うはっちゃんへの蔑みの声とチャルロスによって放たれた銃弾。かつて世界政府によって魚類に分類されていた魚人族への差別がこの島では根強く残っているのである。それを十分承知していた はっちゃんであったが、かつて海賊だった頃にナミの故郷で酷いことをした償いを少しでもしたくて、麦わらの一味に同行していたのである。撃たれて負傷しながらも、はっちゃんはルフィを制止しようとするが、ブチ切れたルフィはついにチャルロスを殴り飛ばしてしまう。
ケイミーを無事救出した一行であったが、世界貴族の天竜人に手を出したために海軍三大将の一人、黄猿が島に上陸していた。海軍が島を包囲する中(原作ではストロベリー中将は登場しない)、船のコーティングには3日を要するという。一味は、それまでの間、島の何処かに隠れていようとした最中、海軍大将 黄猿と王下七武海 バーソロミュー・くまと遭遇してしまう。圧倒的な力を前に、ルフィは一味に退散命令を出すが、なす術無く、くまのニキュニキュの実の能力(肉球であらゆるものを弾き飛ばす能力)によって、一味は離散する。実は、くまは世界政府に反旗を翻す革命軍の幹部であり、革命軍の司令官がルフィの父親というよしみで、くまは一味の危機を救ったのだった。
支配人ディスコ(市川猿三郎)。衣装は完全に西洋風。原作より品が良い。 |
人魚ケイミー(市川猿珠)。布で水槽の水が表現。原作と異なり、御淑やかな女性として演じられている。 |
麦わらの一味 サンジ(中村隼人)。役者のアイディアで、愛用のタバコは紙巻きからキセルに変更。スーツに和服とファーコートを羽織るハイセンスな出で立ち。「美女に弱いがたまに傷」 |
麦わらの一味 フランキー(市川猿若)。力紙という白いリボン状のものは豪快さの表れ。腕は大紋(大素襖)の袖が完全に分離した形状。衣装のイメージはおそらく、『暫』の権五郎と悪党の折衷。 |
麦わらの一味 ナミ(市川春猿)。前に大きく垂れた帯は遊女(傾城)のアイコン。トレードマークの風車とみかんの刺青が小袖の柄になっている。帯の柄は故郷のココヤシ村を表すココヤシと大好きなベリー(お金)とみかん。 |
麦わらの一味 ウソップ(井之上チャル)と麦わらの一味 チョッパー(ぬいぐるみ)。ウソップは一味でただ1人、大衆演劇の演技で一味の引き立て役&お笑い担当になっている。チョッパーの声もウソップ役の役者が裏声で担当。 |
天竜人チャルロス聖(市川欣弥)の出。人間の奴隷を車にして、鞭で叩く。世界貴族ということで絢爛豪華な衣装。下々の者と同じ空気を吸いたくないため、頭部にカプセルを被っている(前面は実際は開いていない)。語尾に「〜え」とつける口癖は、公家言葉っぽく、歌舞伎の台詞の言い回しに合っている。せかせか喋る麦わらの一味に対して、1人だけゆっくりと喋るチャルロスが対照的で面白い。公家悪の貫禄は元よりない。 |
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魚人はっちゃん(市川弘太郎)。タコの魚人で腕は6本あり、左右4本は腹に巻いている。古風な道化方《歌舞伎のお笑い担当役》風の出で立ち。チャルロスに腕を斬りつけられても、タコだから腕の一本ぐらいとルフィを宥め、笑いを誘う。 |
麦わらの一味 モンキー・D・ルフィ(市川猿之助)。トレードマークの麦わら帽子は衣装が変わっても被ることなく、常に背中。髪の毛は後ろ髪の一部を束ねて少年っぽさを表現。 |
麦わらの一味 ロロノア・ゾロ(市川巳之助)。トレードマークの腹巻きに縄帯を締めて、刀を差している。三本刀を右に差すのがゾロスタイル。発声をアニメのゾロ役に似せている。 |
麦わらの一味 ブルック(嘉島典俊)と麦わらの一味 ニコ・ロビン(市川笑也)。骸骨のブルックは道化方というより道化師。 |
麦わら一味勢揃いの場面。『白浪五人男』の勢揃いの如く、順に七五調で名乗りを連ねる。ナミは『極道の妻たち』の様に着物の片方を脱いで、下着を露に(笑)。ツケの乱れ打ちの中の立廻り、そしてバッタリで見得。ザ・歌舞伎。 |
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人型チョッパー(石橋直也)。ヒトヒトの実を食べたトナカイのチョッパーは人型、獣型(トナカイ)、人獣型(ぬいぐるみ)に変身することができる。舞台での変身トリックがバカバカしくて面白い(それは秘密)。 |
海軍大将”黄猿”ボルサリーノ(市川猿四郎)。敵役。派手なシャツ、派手なネクタイ、派手な束帯…。第三幕の衣装はカッコいいのでご心配なく。 |
海兵は機動隊のような盾(ライオットシールド)を持って登場する。これが自由自在に動く舞台上の幕として機能し、役者が現れたり消えたり、プロジェクションマッピングのスクリーンにもなる。ロビンは自身の体の一部を花のように咲かせることができるハナハナの実の能力者。 |
ルフィの技を受ける海軍中将ストロベリー(坂東大和)。背の高い僧帽を被っているのは彼の頭が極端に長いため。技名は漢字に外国語を当て字しているものは全て日本語にアレンジされている。「ゴムゴムのJET銃乱打(ジェットガトリング)」→「ゴムゴムのJET銃乱打(ジェットきかんじゅう)」 |
ストーリー補足
女ヶ島に着いたルフィはカラダカラキノコガハエルダケを食べてしまい倒れていたところを護国の戦士マーガレットらに助けれられる。文字通り体中からキノコが生えていたため、マーガレット達はルフィが男だと分からず、男子禁制の掟を破ってしまう。蛇姫(ハンコック)が島に帰還する前にルフィを始末しようとするが、情が移ったせいか、ルフィを逃がしてしまう。
マリーゴールド(笑也)。ゴルゴン三姉妹の一人。ハンコックの妹。原作より美人。 |
サンダーソニア(春猿)。ゴルゴン三姉妹の一人。ハンコックの妹。原作より怖い。 |
ニョン婆(市川笑三郎)。実は先々々代皇帝(本名グロリオーサ)。「ニョ」を付ける独特の言い回しが客に受けていた。ワンピース歌舞伎随一の人気キャラ(だと思う)。 |
蛇姫ボア・ハンコック(猿之助)。ルフィ(猿之助)との立廻り場面。早変わりの連続が見どころ。湯浴み中だったので衣装は襦袢? |
ルフィ(猿之助)がサンダーソニアの露になった背中を隠す場面。ルフィの衣装は場面ごとで変わっている。 |
ルフィの伸びる腕。ゴムゴムの実のゴム人間なので体が伸びるという設定。黒衣たちが各々の腕を連ねて伸びる腕を再現。歌舞伎では黒は見えないものというのがお約束。ちなみに、この場面の黒衣の配役は「踊る腕」となっている。 |
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この場面のルフィの衣装は、原作でマーガレットがフリルを付けて仕立てたルフィの衣装がモチーフ。女ヶ島の住人は男という概念を全く知らない。 |
村娘スイトピー(市川猿紫)とマーガレット(市川笑野)。かなり痛い系のおバカキャラとして演じられている。 |
宴会場の場では、新橋演舞場で実際に出張販売をしている祇園味幸の「麦わらの一味セット」(黄金一味と祇園七味)をルフィがスイトピーとマーガレットに直で食べさせて、宣伝する場面がある。麦わらの”一味”だ。歌舞伎の人気演目『助六』には初演当時、実際に販売されていた商品(朝顔せんべい)が役名になった人物が登場するが、こちらは商品が後出し。 |
ストーリー解説
野心高い海賊・黒ひげティーチは白ひげ海賊団で実力を潜め、成り上がるチャンスを虎視眈々と待っていた。そしてある日、ティーチが求め続けた悪魔の実”ヤミヤミの実”を白ひげ海賊団の仲間が見つける。悪魔の実は最初に見つけた者が口にしていいという船の掟があったため、ティーチは友達だったその船員を殺し、悪魔の実を奪って逃げるのだった。仲間殺しは一番破ってはいけない鉄の掟。白ひげ海賊団2番隊隊長のエースは、部下が行った罪にケジメをつけるため、ティーチを追跡するのだった。
ティーチの成り上がるための次の計画は懸賞金額1億ベリー以上の賞金首を海軍に差し出し、王下七武海に加入することだった。始めは目標をルフィに定めて、麦わらの一味を追っていたが、エースとバナロ島で遭遇し、決闘が始まる。エースの炎を操る”メラメラの実”の能力に対して、ティーチの”ヤミヤミの実”の能力は闇を操り、悪魔の実の能力者の能力を無効化する特殊な力もあった。ティーチが”ヤミヤミの実”が最強だと考える理由はこの点にある。エースを討ち取ったティーチはエースの身柄を海軍に引き渡した。予期せずエースを手に入れた海軍元帥センゴクはある決意のもと、エースの公開処刑を発表する。
一方、ティーチはその実績を政府に売り込んで目論見通り王下七武海の座につき、次なる計画に移行するのだが、舞台ではこれ以降の黒ひげの活躍が描かれていないため、以降のストーリーが原作と多少異なっている。
セリ上がった舞台が別の場所や回想を表現している。 |
海賊”黒ひげ”ティーチ(市川猿弥)。大きな野望を抱く敵役で、原作では第二幕、第三幕に当たるエピソードでも活躍するが、舞台では海軍の犬的な海賊に成り下がっている。 |
ポートガス・D・エース(福士誠治)。ひいき目に見なくともカッコいい。 |
海軍科学部隊隊長・戦桃丸(弘太郎)。鉞かついだ『積恋雪関扉』大伴黒主ではなく、モデルは元より金太郎。 |
海軍元帥センゴク(浅野和之)。花道のスッポンから登場。 |
真面目なシーンだが、フリルの衣装が締まらない(笑)。 |
ストーリー解説
エースが公開処刑される予定の海軍本部マリンフォード、そしてエースが幽閉されている大監獄インペルダウンは天竜人が暮らす聖地マリージョアと目と鼻の先。かつてハンコックら三姉妹はマリージョアで奴隷になっていた。心の傷が癒えていないハンコックを政府中枢に向わせることに心配する妹君たちだったが、恋は盲目。そんなことは一切御構いなしのハンコックなのだった。東の海にはこんな諺があるという…恋はいつでもハリケーン。
原作では、海軍の軍艦でインペルダウンに立ち寄ることを条件に、拒否していた政府の招集(二場の会話に出てくる。実はエース公開処刑の防備)を受けるが、舞台ではマリンフォードにハンコックら王下七武海は登場しないため、その辺りの設定は曖昧になっている(?)。
中央:恋するハンコック、中央左:侍女ラン(市川喜昇)、中央右:侍女エニシダ(段之)。衣装は極端に大きな袖に金糸のハンコックの紋(九蛇海賊団=ハンコックの海賊団のシンボル)が入った赤色の豪華な四天(と言っていいのか)。赤地に金糸は歌舞伎の姫の定番衣装。姫役の通称で”赤姫”という言葉があり、恋に積極的なのが特徴。ハンコックは原作では最初から赤の衣装だが、これが恋愛モードの合図というわけ。話は変わるが、ランの踊りが際立って上手い。 |