■ ONE PIECE FILM GOLD
公開日:2016年7月23日
上映時間:120分
原作・総合プロデューサー:尾田栄一郎
監督:宮元宏彰
脚本:黒岩 勉
公式サイト:http://www.onepiece-film2016.com/index2.html
キャッチコピー:それは、世界を統べる力。
いつもなら、とりとめなく感想をしたためているところですが、『ONE PIECE FILM』も3作目ということで、今回は趣向を変えて、ワンピースファンでありながら映画的な厳しい目線で『ONE PIECE FILM GOLD』のレビューをしてみたいと思います。多少ネタバレありです。悪しからず。
レビューの要点は大体こんな感じです。
・『ONE PIECE FILM』3作中、シナリオの完成度が最も高い
・大量のゲスト声優は概ね問題無し…ただし、バカラは△
・作画安定、観るなら3Dが良し
・映画的カタルシスが足りない
・隠れキャラ要素は蛇足
・『ONE PIECE FILM』3作中、シナリオの完成度が最も高い
『ONE PIECE FILM』シリーズは本作で3作目。この劇場版シリーズは、原作者の栄ちゃんがプロデュースしたこと、原作と地続きのストーリーにしたこと、入場者特典にコミックス風小冊子を付けたことで原作ファンも取り込み、興行的に成功しているわけですが、過去2作のシナリオには突っ込みどころは多いです。実際に現場でどういうことが起きたかは知る由もありませんが、「こういう画を見せたい」「衣装替えはたくさんしたい」といったリクエストが先行し、さらには製作の遅れのために、シナリオの詰めが疎かになったのではなかろうかと思ってなりません。
第1作の『STRONG WORLD』(以下、『SW』)で一番印象的なのは、シキに支配されていた住民達が最後に空を飛んでいるところ。一体、どういうことなのか?何で住民達の腕に羽が生えたのか?百歩譲っても、その小さな羽で空を飛べるはずもなかろうにと。不自然な場面展開に、不自然な衣装替え、説得力のない勝利。特にジャンプ漫画としては”勝利”への道筋が大切なはずですが、『SW』ではロジャーと肩を並べた伝説の海賊シキに対して、覇気を習得していない”2年前”のルフィが本気を出していなかったから敗北、本気を出せば勝利してしまいます。『Z』では戦闘を引っ張った挙げ句、ルフィとゼットのタイマン勝負において、ゼットの老いにより勝敗が決します。
ジャンプ系の連載漫画の映画化において、シナリオでネックとなるのは、主人公達はまず負けないということを観客が承知していることです。仮に『ワンピース』が負けで終われば、おそらく麦わらの一味は海軍に取っ捕まって冒険も終わってしまいます。シナリオに求められるのは”現状復帰”であり、映画の舞台に訪れた麦わらの一味は全員無事に仲間が減ることも増えることもなく、再び航海に戻らなくてはなりません。主人公達は最後に必ず勝つことは分かっていても、ハラハラドキドキする展開が求められるわけです。ハラハラドキドキする展開とは説得力のある負けそうな展開です。しかし、現状の『ワンピース』において、ルフィはドフラミンゴを倒す程の力(ギア4)を持っているため、原作ストーリーに干渉しない条件で、かつ、麦わらの一味をピンチに追いやる力を持つキャラクターを設定することは難しいと思われます。
この点において『GOLD』が巧いと思うのは、麦わらの一味が舞台に入った時点で敵のテゾーロに絶対に勝てない罠に掛けることで、一度は敗れてしまうこと、負けてしまったと思わせておいて実はその罠を解くための作戦だったこと、罠が解かれた後に全力を出して勝利、という具合に説得力のある負けそうな展開から勝利が描かれているからです。テゾーロを覚醒した能力者としたこと、ゾロを捕縛したこともシナリオに効いてます。
細かいことを言うと、結局どこまでが作戦のうちだったのかよく分からない、テゾーロはザ・レオーロ(純金カジノホテル)の金を溶かして巨大ロボを造るより、金をミスト化して再び麦わらの一味を支配下に置けば良かったのでは?、テゾーロマネーは結局あるのか無いのかよく分からない、テゾーロマネーの噂があるのならテゾーロが海賊を罠にはめている噂もあるはず、ルッチが言っていたテゾーロは元海賊という話は?(小説版、裏設定等で一切フォローされていない)、と不備はやはりあるわけですが、シナリオは『ONE PIECE FILM』シリーズ3作の中で一番しっかりしていると思います。衣装替えもそれぞれちゃんと理由があります。
ただし、天竜人への莫大な天上金によって庇護されていたテゾーロが、ザ・レオーロに泊まっていた天竜人の一言(テゾーロが暴れて身が危険)で、天上金を護衛しにやって来た海軍の攻撃対象になり、最終的には逮捕されるのはいかがなものかと思います。要は、天竜人(カマエル聖一行)が滞在していたザ・レオーロごと、ブチ切れたテゾーロが金を溶かしてしまったために天竜人に確かに危険が及んだわけですが、その描写がないため、何で天竜人がテゾーロを非難しているのか分かりにくいシーンになっています。これは演出の問題ですね。
なお、ギャグシーンについては、ダイスのサイコロ振りに対してロビンの「意味が分からないわ」、赤目フクロウに生き物と判定されなかったブルックのリアクションが劇場ではウケていました。ファミリーの観客が多いところではレイズ・マックスの足バタシーンもウケていた様子です。フランキー将軍に対して女子が「シーン」は毎度スベっております。
・大量のゲスト声優は概ね問題無し…ただし、バカラは△
例に漏れること無く、本作では前作に増して声優経験がないゲスト声優が大量にキャスティングされています。話題性を作るよりちゃんと映画を作れよという話なのですが、個人的に耳障りだったのは『SW』でちょい役の某キャスター、『Z』ではアイン役の某女優。ちょい役ならまだいいのですが、『Z』の場合はセリフの多い主要キャラクターですからね。誰が悪いのかと言えば、キャストではなく、キャスティングしたプロデューサーでしょう。
しかし、本作は過去作と比べれば、大量キャスティングの割には、ゲスト声優陣は好演しているかと思います。本当のちょい役に関しては、セリフが一言ぐらいしかないので紛れているとも言えますが、良かったのはダイス役のケンドーコバヤシさん、タナカさん役の濱田岳さん、レイズ・マックス役の北大路欣也さん、カマエル聖役の三村マサカズさん。
一方、菜々緒さんが演じるバカラはダメでした。本作で一番セリフが多いというバカラですが、物語序盤はバカラの声が耳障りすぎて全然ストーリーに集中できません(視聴2回目以降は多少慣れるのですが)。抑揚を付けすぎて声が安定していませんし、英語の発音が言い訳でもなく、VIP用の高級コンシェルジュがあんなに腹立つ喋り方するわけないでしょうにと。ただし、正体が判明した後のシーンでは盛り返しているので全くダメというわけではありません。
バカラ役は個人的には林原めぐみさん(ドレスローザ編ではレベッカ役)が適役だったと思うのですが、ゲスト声優陣については過去作と比べれば総じて良かったと言えます。
・作画安定、観るなら3Dが良し
作画は過去作やTVアニメで見られるような、力が入った良い作画とそうでないものとの激しい”落差”はほとんど無く、安定しています。ルフィの腹痛シーンではロビンの作画はある意味崩壊していますが、アレはギャグ顔なので問題無しでしょうw CGについては、東映の技術はぶっちゃけショボいわけですが、3Dで観賞すればそれも緩和されるかなと。なので、3Dで視聴するのがオススメです。
ちなみに、MX4D版は劇中で粉塵が巻き上がったり、キャラクターの技が出る度に顔に水をパシャパシャかけられて非常に不快係数が高かったです。4DX版では観賞していないのですが、4DX版は席から出る水を手元のスイッチで止められる仕様ということで、私としては4D観賞は4DX版をお勧めします。
・映画的カタルシスが足りない
本作は正直なところ、映画を観終わった直後の「あ〜観て良かった」という感激は少ないです。ルパン三世のようなストーリーで、最後は割とバレバレな展開でカリーナが目的を達成する。自爆するかどうかも周知されていないたった100秒で搭乗員が全員、海に出るわけがないというツッコミは置いといて、物語の最後はカリーナのナミへのメッセージでエンディングとなります。カジノで一攫千金を目指してやって来た麦わらの一味は峰不二子もといカリーナにしてやられ、最後までルパン三世風で、結局、プラス・マイナス、ゼロで終わるわけです。
ルフィが宝に執着せずに「騙されたのかー」と笑い飛ばすのはアリだと思うのですが、テゾーロマネーの分け前のことでカリーナと衝突していたナミがカリーナに全部持って行かれているのに、ここではあまり気に止めていないというのは、おかしな話です。過去のカリーナとナミのエピソードでもカリーナに宝を全部持って行かれ、これについては劇中でナミがカリーナのことを許していますが、アーロン一味時代のナミの事情を当然知っているだろうワンピースファンの観客にとっては、カリーナは特別好きになれるキャラクターではありません。劇中で、カリーナが逆境に立つ場面はほぼなく、麦わらの一味のために身を挺して戦うこともなく、オチを知ってしまえばカリーナは終始、自身の野望のためにナミと麦わらの一味を利用しており、カリーナに感情移入する余地はないでしょう。
観客は麦わらの一味の側で観ているので、何かプラスになることが一つでも必要だと思うのです。これも少し変だなと思いながら観ていたのですが、ナミが劇中で、今回は宝には興味が無いと言って、純金のスペアキーを投げ捨てるシーンがあります。まず、わざわざ投げ捨てなくていいだろというのと、この純金のスペアキーを最後のシーンでナミが取り出して、ちゃっかりナミだけはお宝はゲットしている。そして「まぁ今回はこれでいいわ」ぐらいのセリフが一言あれば随分スッキリするはずなのです。
エンディングの映画的なカタルシスという点では本作は過去2作『SW』『Z』のいずれにも劣っていると言えるでしょう。
如何なものかという演出は他にもあり、ルフィが再登場して、さぁここからテゾーロをぶっ倒すぞと、バトル突入で観客のボルテージが上がっていくところで、テゾーロの何やら悲しい過去(777巻参照)と一瞬で分かる回想シーンを差し込んで、盛り上がりにわざわざ水を差してきます。このテゾーロの回想を差し込む適切な位置はやはりテゾーロがルフィに倒された後でしょう。そうすることで、ルフィがテゾーロに対して「お前はおれの大嫌いな奴らにそっくりだ」と言い放ったセリフが伏線として効いてきます。そもそも、このセリフの意味は劇中では分かりづらくなっているのですが(実際、ルフィ役・田中真弓さんのインタビューによると、キャスト陣の間で「大嫌いな奴ら」とは誰なのか話題になり、人それぞれ思い浮かべる人物は違うかもと結んでいる)、要するに、テゾーロは過去の体験から天竜人を憎んでいたわけですが、世の中は金だという考えに至り、実際に金を手に入れたテゾーロは端から見れば自身が憎んでいた天竜人のようになってしまっており、それをルフィに指摘されたという構図になっています。
敵がルフィに倒された後に、この人も悲しい人物なんだよとするのはワンピース的な美学に則していると思うわけですが、悲しい人物をルフィに倒させるのはズレています。回想をテゾーロが倒された時に入れ込まなかったのは、テゾーロとキャストが同じセニョール・ピンクが倒された時の演出と被ることを避けたのでしょうか。いずれにせよ、巧くはありません。
・隠れキャラ要素は蛇足
また、本作ではディズニー映画の影響を受けたか知りませんが、パンダマンに限らない”隠れキャラ”という要素が盛り込まれています。パンダマンなら別に問題ないのです。しかし、他のキャラとなると問題が生じてきます。この隠れキャラですぐに目につくのはヘラクレスン、アブサロム、ワンゼですか。これらのキャラクターがグラン・テゾーロにいる様子が描かれています。
物語の中ではグラン・テゾーロでゾロが公開処刑されるという状況になっており、アブサロムとワンゼはともかく、ヘラクレスンが現場にいるのであれば、麦わらの一味に協力的なヘラクレスンは何かリアクションを取らないとおかしな話です。要するに、この隠れキャラ要素は蛇足なんです。
一方、新大将候補として設定が考えられていた海軍中将の茶トン(※ゴルフ場で登場)と桃うさぎ(※VIPルームで登場)が登場したのは嬉しい演出でした。ファンとして欲しいのはそういうキャラ要素です。