——海外のファンから意見を聞く機会はありますか?
金子:海外ファンのためのフェイスブックページ、ツイッター、インスタグラムがあります。中国のファンのために私たちはWeibo(中国で主流のSNS)も使っています。多くの有名な海外イベントに出展し、そこでファンの声を聞く努力をしています。
——そういったイベントに金子さんも行かれたことはありますか?
金子:機会があれば行きます。1月には初めて北京に行きました。世界中のホビーファンと同じく、北京のファンの反応も素直であり熱狂的でした。キャラクタ—の扱いに関して日本人のファンと中国人のファンは同様の感性を持っていると思うのですが、中国人のファンは遠慮がなく意見を伝えることに躊躇がない(笑)。これは良い意味で言っていまして、彼らのフランクさには感謝しています。北京には再訪したいと考えています。ただし、冬じゃない時期に(笑)。
——金子さんに会って興奮してしまうファンもいたり?
金子:フィギュアに私のサインをお願いする人がいます。「価値が下がるからやめた方がいい」と言うのですが、「構わない、サインして下さい」って。私は尾田栄一郎先生でもないのに、彼らは私がワンピースのフィギュアにサインをすると喜んでいました(笑)。
——バウンドマンルフィフィギュアについてお聞きしたいと思います。予約が絶好調なのだとか。
金子:思い描いたバウンドマンを実際に作ることが出来たので、売り控えは考えませんでした。最初の彩色はよく出来ていましたが、印象に残らないと感じました。リペイントをしてもらうと、見たことのないような出来映えになりました。製作段階では、このフィギュアに関してファンが求めていることを理解し、心に留めることに努めました。私は造形も彩色も出来ないものですから、私の頭の中のイメージを伝えることが、私にとってフィギュアを作ることを意味しています。
——私は『ONE PIECE』をコミックスでしか読んでいないので、武装色をカラーで見るのは初めてなのですが、とてもアメイジングです。
金子:ありがとうございます。煙や他のエフェクトはおそらくこんなにカラフルではないと思うのですが、意図的に演出することは大切だと考えています。ルフィの歯の白を少しだけ引き立て、ルフィの服のヒマワリは金色にしたかったので手塗りにしました。
ジャンプフェスタに最初の原型を持って行った時、尾田先生が「色が付いたらどうなるか本当に楽しみです」と言ってくれました。私にとって、尾田先生の期待に応えることが越えるべきハードルになりました。ですから、最初の彩色が終わった時、私が尾田先生になったつもりでそれを見て、これでは尾田先生を驚かすことはできないと感じました。そこでリペイントをしましたが、この時点で私は限界に挑戦するべきだと決心していました。ペインターに「このまま続けてしまうと製品版でこの彩色を再現することができなくなる」と言われても、工場はこの彩色を複製できると言ってくれたから心配するなと言いました。
——ファンがフィギュアに求めるものと造形師が作りたいもののバランスをどうやって決めていますか?
金子:フィギュア、特にワンピースに関しては、画のレベルが高く、フィギュアを原画に忠実にするか、造形師の個性を出すことを許すか決めることになります。二つの選択肢しかないように見えるかもしれませんが、それは違います。
画は立体物を錯覚させるものですよね?私がすることは画からデザインを取り、それを立体物として取り込み、ポーズを変えること。私はどこが強調すべきところかを探しているだけでなく、ファンがキャラクタ—について考えていることは何か探しています。その性格が善か悪か、ハンサムに見えているかどうか、など。そして、どのようにそれらの要素を増幅するかを考えます。メガハウスと他社の大きな違いはフィギュアでキャラクタ—の特性を増大させる方法だと思います。
これを理解するのに良い例がエースです。彼は現れた時いつでもクールですよね?最初のP.O.Pエースは漫画で最初に登場した時を参考にしています。我々は彼の顔を忠実にコピーしましたが、ファンからは全然違うと批判を浴びました。おそらく当時の技術的な問題もあるでしょうが、製品のイメージとファンのイメージにはギャップがありました。
P.O.P不死鳥マルコでは原型を見た時、その顔は地蔵を彷彿させました(笑)。マルコの顔は確かにそんな感じなのですが、これはファンが思っているイメージではないと考えました。そこで造形師に顔をハンサムにするように伝え、フィギュアの全体のバランスを作り直しました。そして「マルコがカッコいい」という声を沢山頂き、真理を理解し始めました。それでもマルコに似ていないと不満に思うファンはまだいるわけでして、すべての人を喜ばせる製品を作るのは本当に難しいことです。ともかく私は増大させるべきイメージは何かを先に考え、それからフィギュアを作ることを学びました。
——P.O.Pフィギュアはアニメに準拠していると思っていました。アニメと漫画の違いを語っていただけますか?
金子:それに関しては念頭に置いています。フィギュアを作るときは「アニメの設定画を引っ張り出そう」なんてことは言いません。アニメには表情がたくさんありますが、時にはそれは漫画からかけ離れています。漫画の中でさえも顔の違いは見られます。私はそこから一つ選んで、「今回はルフィの顔はこれに近いもので作りたい」って言うんです。アニメか漫画から選ぶというよりは、”これ”っていうものを選んでいます。
これは以前から言えたことで、初めのP.O.Pナミは”アニメイト”で売られていたプラスチック製筆記用ボードに描かれていたイラストが元です。とても良い絵で、それを参考に使おうと決めました(笑)。その絵のナミはマンガともアニメとも違うナミです。
——P.O.Pのうちでお気に入りのフィギュアはありますか?
金子:もし今日選ばなくてはいけないのなら、バウンドマンですね。私がこれまでに作ったもので一番の出来ですから。ただし、これからもより良いものを作るつもりですから、私のNo.1はいつまでもバウンドマンだとは思わないでください。『ONE PIECE』はこれからもっと面白くなっていくことでしょう。ですからフィギュアもそれを反映する必要があるでしょう。今日のところは「バウンドマン」、ですが私の次のフィギュアを見ていてくださいよ。
本当のところ、私はいつも『ONE PIECE』のブロギーやドリー、その他ハイルディンのようなキャラを作りたいと思っています。どれも巨人族です。彼らは未だに作られたことがないと思います。おそらくファンが欲しがらないから(笑)。彼らを作るのが私の夢です。
——どうして巨人族を作りたいのですか?
金子:私はブロギーとドリーが故郷エルバフの誇りを持っているのが好きです。ウソップがどうして彼らを尊敬しているのか理解できます。ハイルディンはかつては他のキャラクタ—(ルフィ)の力を測る程度の役割でしたが、彼が”グングニル”を使った時からファンになりました。改めて巨人族が格好いいと思いました。女性キャラクタ—を作る機会はたくさんあるのに対して、構想段階にも至っていない男性キャラクタ—がたくさんいます。私は彼らをどうすれば市場に持って行くことができるか、いつも考えています。私は『ONE PIECE』の全てのキャラクタ—のフィギュアを作りたいのです!
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今回のところは、時間がないのでこのあたりで。
記事タイトルにあってまだ出てきていないラオGの話とか、まだ翻訳したい箇所があるので、後日、ここにそのまま追記する予定です。
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追記)
——フィギュア製作で最も進歩した技術は何だと思いますか?
金子:一番の進歩は目の彩色方法です。私がフィギュア製作を始めた頃は、顔面マスクのような金型を使って目に色を付けていました。色を入れるまつ毛のような部分を金型から切り取って、それを顔に被せて、スプレーで色を付けていました。(金型1つで)そこにしか、色を載せることができないのです。今では、パッド印刷(タンポ印刷)と呼ばれる方法を使っています。最初にパッド印刷でフィギュアを作った時は、目が雑に描かれているような印象でしたが、今日では目の色の深みはすべてパッド印刷で作られています。白、青、ハイライト、顔に関する全てが一式で印刷することができます。また、デジタル造形を使う原型師もいます。
——クラウドファンディングが盛り上がっていますが、それについて何か思うことはありますか?
金子:クラウドファンディングを使うかどうかと?実際、話に上がったりするのですが、もし我々が適切にクラウドファンディングを利用するとすれば、おそらく以前作ったラオGの原型(※)を製品することができると思います(笑)。頭と腕で"G"を作っているラオGのフィギュアを私は作りたいのですが、皆さんがそれをどう思うか自信がありません。
※メガホビEXPO2014で参考展示されていたラオG。未だ商品化はされていない。
——ラオGとは超ニッチですね。
金子:私は本当にラオGが好きで、その想いが原型を作らせました。我々が作った原型は見た目は普通のお爺さんみたいなのですが、(差し換えパーツで?)不意にGポーズをすることができるというものでした。しかし、トークショーでラオGをP.O.Pシリーズ10周年記念作品として作るつもりだと告知したら、会場が静まり返ってしまいました(笑)。笑わせるつもりで言ったのですが、そのジョークはちっともうけませんでした。その一件があって、ラオGはそっとしまいまして(笑)。願わくば、いつの日かラオGを表に出したいです。
——(Tokyo Otaku Mode読者からの質問)「ポーズはどのようにして決めるのですか?」
金子:特定のシーンを使うならば、あまり考える必要はありません。立体化する特定のシーンをどのようにして選ぶかが問題なのです。ですが、ここにあるハンコック(※)を見てください。彼女はセクシーで、それを恥ずかしがっていないというテーマをまず決めて、そのテーマを使ってポーズを決定しました。ゾロ(※)といえば戦闘シーンですが、剣を持って佇んでいるシーンはあまりない。なので、それにチャレンジしてみたかったです。それもテーマを決めてから、ポーズを作ることが出来ました。
※話題に出てきたハンコックとゾロのP.O.P。
——今後、市場を刺激するためにさらに力を注ぎたいと仰っていましたが、それについて説明していただけますか?
金子:フィギュアは価格が高くなるとともにサイズもより大きくなってきています。ネット上でフィギュアは買えると思いますが、フィギュアを売る一般小売り店がなくなってきている問題があります。『ONE PIECE』の場合、多数のファンがおり、異なる手法にトライして新しいファンに我々のフィギュアを買ってもらうのが私の義務だと考えています。
かつては、市場に『ONE PIECE』フィギュアがあふれている時期がありました。その頃は他社さんは市場の拡大に重きを置いていなかったと思います。対して、私は今まで見たことがないようなキャラクタ—を使って、新たな『ONE PIECE』フィギュアコレクターを市場に呼び込むこもうとしていました。例えば、ナミがセクシーな水着を着ている、男性キャラクタ—が胸をはだけている、それがうまくいきました。今や我々はより多くのファンを抱えています。
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最後の質問で、新規ファンの獲得の例に挙っているものは現行のP.O.P Ver.BBシリーズとP.O.P "S.O.C"シリーズのことかと思われます。
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2018年2月追記)ホビーマニアックスにて翻訳記事が掲載されました。インタビューは元々、日本語で行なわれたらしく、翻訳というかほとんどインタビューの原文が使われている模様です。
http://hobby-maniax.com/archives/67434(パート1)
http://hobby-maniax.com/archives/67455(パート2)
【メガハウス】 「P.O.P」シリーズを造る7人の原型師 【POPs!】
【Hyper Hobby 5月号】 メガハウス取材 ~P.O.Pが出来るまで~