ここはワノ国の都・ヨウ
その都の華やかな賑わいから少し離れた浜辺に
流れ着いた異形のの果実がひとつ
物語はここからはじまる
【1】
その月夜の浜辺を一人の脱獄囚が
息も絶え絶えにさまよい歩いていた
男の名はトラツグという
【2】
ONE PIECE ART
大覚寺「魔獣と姫と誓いの花」展
【3】
飢えと渇きにあえぐ罪人は
浜辺に転がる異形の果実を見つけると
一心不乱にかじりついた!
すると…
【4】
果実の呪いが罪人を魔獣に変えた
顔は猿に手足は虎に胴は獅子に尾は大蛇に
男は巨大な化け物ヌエとなり
黒雲を纏って舞い上がった
【5】
翌日 ルフィたち麦わらの一味は
華やかな都の港に到着した
【5】
ロビンは古き書物に読みふけり
フランキーは異国の船に興奮した
【5】
ナミは雅な着物を物色して
チョッパーは菓子を味見した
【5】
ブルックは路上で演奏を披露し
サンジは女性の美しさに感じ入った
【5】
ウソップは浮世絵のモデルになり
ゾロは道を間違えた
【5】
都で初めて出会うものは見るもの聞くもの
みな珍しくおもしろく
一行は思い思いに都の散策を楽しんだ
【6】
同じ頃 都を治める大名ヒタキの屋敷では
ヒタキの娘 菊姫の祝言があげられようとしていた
先頃 亡くなった
大名ヒタキの跡継ぎとして隣国のラーク皇子を
都の新しい領主に迎えるために
【7】
なんだあの化け物は!!
【7】
その屋敷に突然 巨大な妖怪ヌエが現れた
奇怪な鳴き声に怯える人々
【7】
姫と若君をお守りしろ!
家臣たちは右往左往
【7】
化け物め 私が相手だ!
菊姫を守るため ラーク皇子が剣をふるうが
ヌエの雷と黒雲にまかれて歯が立たない
【7】
皇子と家臣たちは吹き飛ばされてしまった
ヌエは菊姫をさらって飛び去った
【8】
どうか妖怪ヌエから我が妻 菊姫を
助け出していただきたい
ルフィたちを屋敷に招きラーク皇子が相談すると
妖怪?スッゲー!
ルフィの目の色が変わった
助けてくれれば褒美は望みの通りに
ラーク皇子が続けると
お引き受けいたしましょう!
ナミの目の色も変わった
【9】
【10】
見渡す限りの菊の花畑を風のように駆け抜けて
ルフィたちは道を急いだ
力強く 勇ましく 颯爽と
【11】
一行は山寺へ到着した
いたぞ!鵺だ!!
【12】
いっくぜぇー!!
山寺に到着したルフィたちは
巨大な妖怪ヌエを捕まえようと大立ち回り
【12】
しかし組み合ってみるとどうも様子がおかしい
なんだ?おいヌエゴン お前泣いてるのか?
ルフィが手を緩めたその瞬間!
【12】
化け物め!これでもくらえぇえ!
ラーク皇子の放った矢がヌエの胸に突き刺さった!
【12】
ヌエは谷底へまっさかさま
本堂の奥で気絶していた姫を見つけたラーク皇子は
兵を率いて山寺をあとにした
【12】
おいルフィ・・・どうかしたか?
谷底を見つめるルフィの様子にサンジがたずねると
あいつ・・・なんか人間みたいだった
オレ行ってみる!
ルフィはヌエの落ちた谷底へとかけ降りていった
おい待てよー!
一味もルフィの後を追った
【13】
やっぱり!!
ルフィたちが谷底におりると、
そこには傷ついた男が倒れていた
【14】
おい おまえ!ヌエゴンだな!
やっぱり人間だったんだな
ルフィはかけよって男を抱き起こした
【15】
大丈夫だ 傷はそんなに深くない
おれが手当てしてやる!
お前 なんだって屋敷を襲ったんだ?
…わたしはトラツグ
ヒタキ家で華を教える華師です
菊姫の幼馴染みでした
介抱されながらトラツグは事件の真相を語り始めた
【16】
トラツグは この都の領主のヒタキ家で
華道を教える華師だった
子どもの頃から仲の良かった
トラツグと菊姫は次第に魅かれ合い
互いに大切な存在として思い合った
【17】
ある日 トラツグは菊姫に
一輪の菊の花を贈った
想い花です
この菊の花の美しさに
私は一生を捧げる覚悟です
・・・はい
菊姫は小さく頷いた
互いの気持ちを伝え合うのに
ふたりにはそれだけで十分だった
【18】
しかし隣の大国からやってきたラーク皇子が
菊姫と婚約を結んでしまった
この都の富と引き換えに
我が国の強大な兵力による
庇護をお約束しましょう!
脅迫と甘言による政略結婚だった
【19】
そして婚約を取り付けた数日後・・・
冥土で己の弔花を生けるがいい
ラーク皇子は自室で華を生けていた
領主ヒタキを暗殺し
【20】
その現場を目撃したトラツグを
暗殺犯にしたてあげて投獄した
領主殺しの大罪人として
この男の首をはねよ!
【21】
他愛ない・・・
これでこの都もわたしのものだ
最初から絢爛豪華なこの都を乗っ取ることが
ラーク皇子の目的だったのだ
【22】
公開処刑の前夜
トラツグは牢獄から脱出して
浜辺をさまよい呪いの実を食べて
ヌエへと変化したのだった
【23】
フランキー)おおぉぉぉ!なんて切ねぇ話なんだ
ナミ)彼が食べた実は悪魔の実
ロビン)ええ おそらくはトリトリの実の幻獣種モデル ヌエ
ウソップ)ちくしょう!悪党はラーク皇子だったのか!
ルフィ)ヌエゴン…!捕まえようとしちゃってごめん!
ゾロ)ラークのやろう許せねぇな
サンジ)ああ これを見過ごしたら男がすたるぜ
チョッパー)傷はふさいだ これでもう大丈夫だ!
ブルック)ヨホホホホ・・・
【24】
手当てしていただいてありがとうございます…
菊姫…助けにいきます!
トラツグはよろけながらも立ち上がり
ヌエへと変化した
オレたちも一緒に行くぞ!
ルフィは変化したトラツグの背にとび乗った
【25】
ラーク皇子は気絶した菊姫を連れて
都を守る城塞に陣を構えていた
目覚めた菊姫がトラツグへの想いを告げる
私は彼の無実を信じています!
真犯人はきっと他にいるはず!
しかしラーク皇子はそれをあざ笑う
トラツグは必ず捕まえて公開処刑しますよ
たとえ…本当の暗殺者が私であったとしてもね
まさか・・・そんな!
ラーク皇子の表情から事件の真相を察した菊姫は
残忍な皇子へ掴みかかった!
【26】
この都の領主の座を手に入れたからには
お前ももはや必要ないわっ!
あわれ 菊姫は力任せに振り払われ
砦の最上階から落ちていった
ふん!
これもトラツグの仕業にしてやろう!
【27】
雲を割って現れたヌエに乗ったルフィが
地面に叩き付けられる寸前の菊姫を見事にキャッチした
よっしゃあ!!
麦わらの一味たちは砦を取り囲んだ
【28】
我が妻 菊姫が海賊にさらわれたぞ!
妖怪と海賊たちを撃ち殺せ!
全大筒構え!
砲撃開始!
撃て!撃て!
ダメです皇子!当たりません!
ヌエの動きが速すぎます!
皇子!
た・た・大変です!海賊たちに!
つぎつぎと砲台が破壊されていきます!!
ひっひるむな!
撃てえ!撃てぇ〜!
【30】
ルフィたちへの礼と二人の無事を祝って
都をあげての宴がひらかれた
【30】
やさしく見つめ合うトラツグと菊姫
姫ご無事でなによりです
ありがとうトラツグ
すみません私のせいで姫を危険な目にあわせてしまった
いいえ あなたは私を救ってくれたのです
この美しい都とともに
・・・姫
想い花の誓い守ってくださったのですね
一生を捧げるとお誓いしましたから
二人はしっかりと手を握りあった
【30】
めでたしめでたしだね
チョッパーが言った
妖怪はペットにできなかったけどな!
ルフィが笑った
褒美も貰い損ねちゃったけど!
ナミも微笑んだ
ルフィたち一行は
また次の航海へと旅立っていった
完