・狂死郎の正体と世界の夜明け
前回から引き続き
20年前の回想で、
光月おでんが処刑された後の光月家の者たちの様子が描かれています。おそらくワノ国編の回想はこれで最後だと思われます。錦えもんが麦わらの一味に語った 光月おでん の話(920話)は前回までの回想で全て描かれましたが、
今回の回想でワノ国の過去にまつわる伏線のほとんどが回収されています。何より、狂死郎の正体が明らかになったことが大きいです。
おでんにワノ国の開国を託された
光月の家臣達は九里へ逃走し、
しのぶもこれに加わります。この時に
イヌアラシと
ネコマムシがいがみ合っていた(920話)のは、おでんが処刑されたことの責任を互いに擦りつけていたのでした。そうしているうちに追っ手の百獣海賊団
ナンバーズ(SMILEの覚醒能力者と予想)(
954話)に捕らえられています。この喧嘩が20年も続いていたわけです。
途中、追っ手を食い止めるために
傳ジローと
アシュラ童子が殿(しんがり)となり、この時に二人はカイドウと戦っているはずです(922話)。
九里の城に着いた錦えもん達ですが、
キングが率いる百獣海賊団に城を囲まれて火を放たれ、空を飛べる
カイドウは天守に侵入して
トキと
モモの助を襲っています。
カイドウはモモの助の首を絞めて天守の上からぶら下げ、モモの助に尋問します。この時の様子が819話のモモの助の回想に当たります。そしてカイドウに襲われた時のことがトラウマになり、モモの助は
高所恐怖症(701話)になったようです。本話の冒頭では空島のタコバルーンの上でおでんに”高い高い”されて喜ぶモモの助が対照的に描かれています。
光月家を滅ぼすため、おでんの跡取りを殺しに来たカイドウでしたが、モモの助があまりに幼かったことから、自らの手で殺すことやめて、そのまま城の炎で死ねと去っていきます。その後、錦えもん達がトキ達のもとにようやく辿り着き、
トキはおでんの遺志(
972話)でモモの助達を20年後にタイムスリップさせます(920話)。
日和を現代に残した理由については言及されていませんが、日和は
河松が預かり、河松は城の水堀を潜って脱出しています(
939話)。
また、おでんの遺志(972話)に反抗して現代に残った
トキは命を賭して民衆の前で
辞世の句を詠み(919話)、百獣海賊団に撃たれて亡くなります。
月は夜明けを知らぬ君
叶わばその一念は二十年を編む月夜に九つの影を落とし
まばゆき夜明けを知る君と成る
これはトキトキの実の能力で約800年前からタイムスリップを繰り返して”過去から逃げて”来た(
964話)自分自身に対するささやかな抵抗でした。
おでんは20年先の未来(
968話)で”世界がひっくり返る”ことを知り、
空白の100年にあたる800年前から未来にタイムスリップしてきたトキが望む世界が20年先の未来にあるはずなので、トキに20年後に飛ぶことを勧めますが、それはおでんと別れることになるためにトキは拒否していました。
おでんが亡くなった今、確かに20年後に自分もタイムスリップすれば、トキが望んでいた世界にたどり着けるはずですが、それは「誰かがやってくれる」という他力本願な無責任な想いだと気づいてしまいます。そこでトキは20年後の復讐を示唆する辞世の句を詠むことで、20年の空白の間、ワノ国の希望を繋ぐ役割を果たそうと決心したのではないかと思われます。
また、この経緯から見てトキの辞世の句の「
夜明け」とはワノ国の夜明けだけでなく”世界の夜明け”(809話)を指していると考えられます。20年先に起こると考えられる”世界がひっくり返る”ことを「世界の夜明け」と表現することは、
おでんと
トキ、
光月の家臣らでおそらく共有しており、だからこそ
ネコマムシは自身を「
世界の夜明けを待つ男」(809話)と名乗っていたわけです。
百獣海賊団に捕まったネコマムシとイヌアラシは自力(?)でワノ国を脱出しており(819話)、この時までにトキの辞世の句を耳にしているとすれば、トキの能力を多少知っているはずのネコマムシとイヌアラシは遺体が見つからない錦えもん達に何が起きたのか、大体予想ができていたことになります。そして、ゾウに帰って来たネコマムシから光月家の話を聞いた
ペドロは、ネコマムシの役に立ちたくて夜明け前=「夜」を意味する「ノックス(nox)」海賊団の船長としてポーネグリフを探す旅をすることになります(830話)。ジャックの襲撃後のゾウに訪れたサンジ達に、ペドロがネコマムシとイヌアラシの二人は「
世界が待っている」(810話)と表現したのは、二人が世界の夜明けの鍵となるワノ国の開国を託された光月の家臣だから、というわけです。
殿となった傳ジローとアシュラ童子は百獣海賊団に捕まらずうまく逃げたようで、
アシュラ童子は九里の頭山に辿り着き、
傳ジローは白舞の閻魔堂(950話でゾロと日和が休息した場所)に辿り着いています。傳ジローはオロチとカイドウに対する
激しい怒りに”取り憑かれ”て風貌が一変してしまいます。
↓
↓
↓
↓
↓
時間の経過が描写されていますが、一体どれぐらいの時間が流れたかは不明です。傳ジロー自身はこの変身について「”怒り”という妖怪に取り憑かれた」と表現しています(『娘道成寺』という歌舞伎の演目では、娘が恋した男への憎悪と執念で大蛇の妖怪に取り憑かれて変身するという話があるのですが、それが元ネタなのでしょうか)。花の都にやって来た傳ジローは自身を「
狂死郎」と名乗ります。期待通り、狂死郎の正体は傳ジローでした。狂死郎(傳ジロー)はその才覚で瞬く間にヒョウ五郎に代わる花の都の侠客の親分となり、オロチに取り入ります。狂死郎という名の侠客は20年前にはいなかったという話でした。傳ジローの目的は復讐一つです。
狂死郎が最初に怪しいと思われたのは小紫が城で騒動を起こした時に「修羅場でござる!!」(
932話)と発言したことです。それに続いて小紫を斬る行動(
933話)、その後、小紫が生きており正体が日和だと明らかになったこと、小紫の葬儀を狂死郎が取り仕切っていたことでますます怪しくなります。しかし、日和がこのトリックについて言及することはありませんでした。
それは狂死郎(傳ジロー)が日和に「いつか来る決戦のその瞬間まで」狂死郎の正体はたとえ味方にさえ他言無用だと伝えており、日和はそれを守っていたことになります。狂死郎の正体を知っているのはおそらく日和だけです。また、日和が花の都の狂死郎が仕切る遊郭に紛れ込んで来たのは偶然でした。河松から自立した日和は都でお腹をすかせていたところを狂死郎(傳ジロー)に発見されます。
日和は狂死郎(傳ジロー)に「小紫」の名前をもらい、芸者として身を隠すことになります。小紫(日和)が演奏していた「いつものあの曲」(932話)の曲名は「
つきひめ」のようです。この曲は
おでんが好きだと言っていた曲で、日和にとっては おでん との思い出の曲だったわけです。小紫(日和)が「いつものあの曲」を演奏する時にいつも面をつける(932話)のは、面の下できっと涙を流していたことでしょう。
また、花の都で話題の義賊である
丑三つ小僧の正体も狂死郎(傳ジロー)でした。狂死郎はいつも眠そうにしていることから”居眠り狂死郎”の異名で呼ばれていますが、これは夜遊びがすぎるわけではなく、夜に丑三つ小僧として活動していたからでした。なるほど〜!決戦(火祭り)前夜、「えびす町」にお金がばら撒かれ、丑三つ小僧が現れたということになっていましたが、都では泥棒が出ていないという話でした(
959話)。これは康イエを失った住人達への狂死郎(傳ジロー)からの見舞金だったと考えると納得できます。傳ジローら光月の家臣達はかつて康イエから施しを受けていたわけですから。
ワノ国の回想に入る直前の第三幕の話(958-
959話)は、オロチの策によって錦えもんらの作戦が崩壊した状況に見えていました。そして火祭りの日、オロチがカイドウのいる鬼ヶ島に向かう一方、オロチの軍勢で唯一、
狂死郎(傳ジロー)は花の都に留守番で残っているということでした(
958話)。やはりこの状況を打開するのは傳ジローなのだと思われます。今がまさしく「決戦のその瞬間」であり、この日まで狂死郎として20年近くオロチのもとで忍んでいたわけですから。そして、
ネコマムシと侠客団、
ジンベエの登場が期待されます。