【No.179】 KASING LUNG
香港のイラストレイター、玩具作家。自身のキャラクター「Labubu(ラブブ)」とチョッパーのコラボ。
【No.180】 ZEROSTUDIO × 山岸鋳金工房 × 高木謙造
造形王でも知られる商業原型師の山口範友樹らが所属するアートプレストの造形スタジオ「ZERO STUDIO」。銅で鋳造したエネルフィギュア。原型制作は江頭慎太郎。
【No.181】 山本寛斎
ファッションデザイナー、イベントプロデューサー。
【No.182】 KOHJI FUKUNAGA
アートディレクター、デザイナー
【No.183】 Bustaskill
デザイナー。
『ONE PIECE』を“安売り“する者への憤り 謎多き「BUSTERCALL」プロジェクトの真相
(前略)
──BUSTERCALLプロジェクトに関わるみなさんは、そもそも何者なんですか…?
担当者A:それはお答えできないです。有志のファンがやってる非公式のプロジェクトだと思ってもらえれば十分です。
──では、具体的にどのようなプロジェクトなのでしょうか?
担当者A:簡単に説明すると「ONE PIECE カッコいいんだよプロジェクト」です。
まず僕らは大前提として『ONE PIECE』が大好きです。だからこそ『ONE PIECE』の“カッコいい”コンテンツに触れたい。グッズであればオシャレなアパレルやカッコいいフィギュアがほしい。クールなアニメを観て、最先端のゲームをプレイしたいと。
なのに、現状の『ONE PIECE』を取り巻くコンテンツのほとんどが納得いく出来ではない。Tシャツにしてもキャラクターの立ち絵がプリントされているだけ。アニメのクオリティも世界一の漫画にしては低い。なぜ、『ONE PIECE』はこんなに素晴らしいのに、グッズやアニメは頑張らないのかと思っていました。
もちろん『ONE PIECE』にはいろいろな層の読者がいると思います。現状のグッズ展開でも満足な人もいると思う。そういう人たちの満足を邪魔するつもりはありません。僕たち世代の、ストリートやポップカルチャーが好きな人々にとって「カッコいい」ものがないんです。
であれば、「自分たちでカッコいいコンテンツをつくってしまえ」と考え立ち上げたのが、「BUSTERCALL」プロジェクトです。
──言ってしまえば、一種の二次創作ですよね。
担当者A:その通りです。ここで言っておきたいのは、『ONE PIECE』は原作者の尾田栄一郎先生が描いたものがすべてです。絶対的な存在であり一番最強で神なんです。
その上で、作者以外の人がつくったものは、言ってしまえばすべて二次創作であるとも思っています。『ONE PIECE』を取り巻く会社、例えば出版社やアニメ制作会社、玩具メーカーなどは、権利をお金で買って作品を使って独占的にコンテンツをつくっているだけ。僕らからすると、この会社たちがそもそも疑問な存在なんです。
──具体的になぜ“疑問”なんでしょうか?
担当者A:彼らが『ONE PIECE』を安売りしているように見えるからです。経年劣化だと思うんですけど、最初は彼らも『ONE PIECE』をより大きなものにしよう、多くの人に届けようと頑張っていたかもしれません。
でも、売れて大きくなってからは「これくらいでいいだろ」と驕りを持ってコンテンツをつくっているように見える。広がった読者層と多様化したニーズに対応しきれていない。
それでも、コピペみたいな量産モノをつくってもそれなりのお金が入るから、いつまで経っても改善されない。『ONE PIECE』に限らず、巨大コンテンツが陥りがちなところに陥っている。
だったら、極論ですが、尾田栄一郎先生が嫌だと思わなければ何をしてもいいだろうと。『ONE PIECE』をカッコいいと思っていて、何かつくりたい。でも、権利の関係上つくれない人や単純に「やれるわけない」と思って黙っている人はたくさんいるだろうから、その人たちと手を取り合って、非公式だけど公式の“二次創作”よりカッコいい“二次創作”がつくれることを証明したいんです。
──権利でガチガチに縛って、自由度を極端に狭めてしまった現状に危機感を持っていると。
担当者A:実は「BUSTERCALL」には、普段『ONE PIECE』のグッズ制作の仕事に関わる人間もいます。聞くところによると、グッズをつくるとき、使える素材がかなり限られているようです。
具体的には、ただ立っているアニメ版のルフィのイラスト……みたいな。そんなイラスト使ってグッズつくったところで、カッコいいものはできないですよね。担当者が「原作の絵は使えないんですか?」と聞いても「権利元が違うから無理」と断られる。
100歩譲って、アニメの絵でもいいからカッコいいバトルシーンの絵を使いたくても、それは「使える素材」の中に存在しない。
グッズ以外にも、アニメに出資しているのがエイベックスだから、他社アーティストが『ONE PIECE』好きで曲をつくりたいと思っても、かなり難しいと思います。
同じように、いくら「アメトーーク!」で「ONE PIECE芸人」をやりたいと思っても、アニメの放送局はフジテレビだから無理とか。そんなんじゃ一生カッコいい・面白いコンテンツプロモーションなんて生まれない。狭苦しいブランディングのせいで作品自体も死んでいく。これを食い止めなければならないと思っています。
なので今回のプロジェクトでは、そうした権利の枠に囚われないような人選、通常公式の企画では絶対に声のかからない人を多数起用しています。
(中略)
──プロジェクトには、国内外問わず200名のアーティストが参加してますよね。選定基準について教えてください。
担当者B:僕らは国内アーテ ィストを選定していて、基準はまずシンプルにカッコいいかどうか、今回の「BUSTERCALL」というプロジェクトにマッチしているかどうか、あと誰もが知っているような著名な方はできるだけ避けるようにしました。
知名度で言うと野生爆弾のくっきーさんや格闘家の朝倉未来さんとかいますけど、ただ有名なだけじゃない一癖も二癖もある表現者だと感じていて「この方なら何か想像もつかない面白いレスポンスをしてくれるだろうな」と。
各界で著名な方は多々いますけど、今この時点で著名な方でなく、誰もが知らないような、まだまだこれから世の中に出ていくような方をジャンルレスにフックアップできたらと思い、かつ『ONE PIECE』の奥深さを作品でリマインドしてくれるような方々をセレクトしたつもりです。
海外アーティストは別スタッフが選定しているのですが、事前にコンタクトを取るアー ティストリストを共有し合って、ズレが出ないようにしています。
──アーティストのInstagramアカウントを見ると、フォロワーが数百人といった方々もいらっしゃったので、どうやって探し出したのか気になります。
担当者B:本や雑誌はもちろん、SNSなどから探していました。
担当者A:芸大の卒業制作からも探してたよね?
担当者B:行ったね。芸大や美大の図書館入って卒業生を片っ端から調べました。全体のバランスは意識しながら、映像、イラスト、造形、写真、ファッション、建築や食、科学などなど、様々なジャンルを取り入れようと意識しました。
断られた方ももちろんたくさんいますし、まだまだ世の中にはいろんな表現者がわんさかいて、そういう方にオファーできていないのは力不足だし悔しいなと思っています。
──アーティストにはプロジェクトについてどのように説明されたんですか? 伝わりづらい部分もあると思いました。
担当者B:国内アーティストに関しては、基本1人ひとり直接お会いして、企画書を見せてお話しさせてもらいました。会えない方は電話やメールです。
アーティストさんの中には何名か『ONE PIECE』を読んでいない人もいて、「失礼に当たるから、お断りさせてください」という方もいれば、「読んではないですが興味深い企画なのでチャレンジさせてください」という人もいたり、「明日買って読みます(笑)」という方もいらっしゃいました。
完全に感覚ですが、基本は『ONE PIECE』を好きそうな方を選んだつもりではあります。
──イラスト、フィギュア、アニメ、サウンドなど多種多様なアートが並んでいて、中には「こんなのもアリなの…?」と思うような作品もありますよね。どのようにディレクションされているのかなと。
担当者B:作品のディレクションは一切していなくて、依頼内容としては「『ONE PIECE』 をモチーフに自由に作品を制作していただきたいです」とお伝えしているのみです。Instagramのレギュレーションにさえ引っ掛からなければ、それ以外はなんでも大丈夫ですと。
全アーティストさんにまったく同じオファーの仕方をしているので、逆にそれが良い意味でプレッシャーにもなり『ONE PIECE』という作品とまず向き合うことにつながり、そこからまた新しい形の表現が生まれたら、という気持ちはありました。
ご存知の通り、圧倒的に自由で真っ直ぐなゴム人間が主人公なので、それに負けないユーモアに溢れたカッコいいモノが見れたらと、作品が届くたびにワクワクしていました。
担当者A:一部の人からは「さすがにやり過ぎだろ」と意見をいただいたこともあったけど、誰が何つくろうがいいじゃないですか。いまはSNSで誰でも作品を投稿できる世の中だし、版権のルール内では生まれ得ない面白さやクオリティを感じるコンテンツが話題を集めやすいと思っています。
自由度がないと、そういうコンテンツはなかなか生まれないですよね。そんな想像以上のものをこのプロジェクトで見せていきたいと思ってます。
(中略)
──3月には、日本で初めての展示会を開催予定でしたが中止を発表されました。どんなイベントになる予定だったのでしょうか?
担当者A:新型コロナウイルスの影響でやむを得ず延期の判断をしました。大変悔しい思いです。改めての開催時には、Instagramにアップされている作品をすべて展示する予定です。フィギュアなどの造形品は写真で見るより、実物を見たほうがパワーを感じられるはずなので。
また、アートの物販も予定してます。それを公式の人たちが買い上げて「公式として売るよ」と印を押してくれたら、僕らとしては一番ハッピーな形ですが……まあそんな度量はあるのかなという気もしています。
──物販で稼いだお金は、「BUSTERCALL」の収益になる?
担当者A:イベント自体も入場無料ですし、物販で利益を出すつもりもありません。金儲けを自由にしていいとは決して思っていないです。原価以上に得たお金は集英社だったり東映アニメーションだったりバンダイだったりにお渡しして、最終的に尾田先生に還元できる形をつくります。
──プロジェクト全体としてかなり強気ですね。展示会の反応次第で、今後の展開も考えていくのでしょうか?
担当者A:次の展開は、すでに構想を練っています。また同じアーティストに協力を仰いで新作のアートをつくってもらうのか、逆に違うアーティストに頼むのか、そもそもアートとして進めていくのか……いろいろ展開の方法はあると思うので、「何かしら新しいことしてる」を見せ続けるプロジェクトでありたいですね。楽しみにして欲しいです。
(後略)
(KAI-YOU)