『
るるぶONE PIECE』に掲載されている物件は約90件ほど。
そのほとんどのネタ出し作業を編集協力という形で私が行いました。
この解説シリーズでは、ネタ探しの裏話や誌面のスペースの都合で伝えきれていないネタの解説、掲載に至らなかったネタなどを紹介していこうと思います。
お手元に『るるぶONE PIECE』がある前提で書いていますので、本誌と一緒にお楽しみください。
今回は
ウォーターセブン編の制作裏話・未掲載ネタについて解説します。
「水の都」ウォーターセブンは同じ別名を持つ
ヴェネツィアがモデルであることはコミックスSBSで明らかになっています。その上で、ヴェネツィアはコンパクトな観光都市であるため、誌面デザインのプロトタイプとして早い段階から編集作業が進められていきました。さらに、ヴェネツィアは私も行ったことがあるので、モデルコースのプランニングも含めてコメントする機会が多かったです。
『るるぶワンピース』の発売前に放送された「
林修の今でしょ!講座 特別編 東大生ランキング」(2月16日放送)では、番組が るるぶ編集部(JTBパブリッシング)に取材をして、一瞬ですが担当者が『るるぶワンピース』を紹介する場面がありました。誌面のウォーターセブンのページを開いて、
ヴェネツィアの橋(
リアルト橋)と
この橋(
ルフィらがヤガラブルに乗っている方の原画の橋を指して)が似ているんですよ、と特集誌面のアピールをしていたのですが・・・
橋が似てるのはそっちじゃなくて、こっち(右下)な!
1番ドック前に架かっている橋です。
1番ドック前での物語の展開が多いので、
リアルト橋に似ているこの橋は本編によく登場しています。また、その後、
931話の扉絵リクエスト絵にもリアルト橋がデザイン元と思われる橋が描かれています。
ちなみに、ウォーターセブンと海列車でつながっている「春の女王の町」
セント・ポプラにはヴェネツィアと同じくイタリアの観光都市ローマにある
サンタンジェロ城らしき建物が描かれています。
496話扉絵
本編に登場していない海列車でつながる町には「美食の町」
プッチ、「カーニバルの町」
サン・ファルドがありますが、イタリアは「美食の国」とも呼ばれますし、カーニバルの衣装自体はウォーターセブンで登場しており、これはヴェネツィアのカーニバルをモチーフにしたものでした。つまり、
海列車でつながる町は全てイタリアを題材にしていると思われます。
さらに、
860話の扉絵リクエスト絵には、ヴェネツィアと同じくイタリアの観光都市
ピサの大聖堂と斜塔らしき建物が描かれています。
1枚目の写真が
大聖堂の横側から撮ったもの(
こちらが扉絵のデザイン)、2枚目の写真(私が撮ったものです)が大聖堂の斜め正面から撮ったものです。
どちらの扉絵リクエスト絵も雨のシチュエーションのリクエストで、いずれの扉絵も雨なのですが、栄ちゃんは雨の日からイタリアを連想したりするのでしょうか。そういえば、ウォーターセブンでもアクア・ラグナのシーンは天候が雨でした。旅行好きの私の持論では、文化遺産の観光において天候はそれほど気になりません。文化遺産の多い観光大国のイタリアでは雨の日でもドンと来いって感じですが、ピサに限っては建物が白で、広場が芝生で覆われているので、青空バックの綺麗な写真が撮りたかったですね。
『るるぶワンピース』の面白いところの1つに、国内の旅行ガイドやツアーでは扱われることの少ないスポットが『ONE PIECE』という作品を通して紹介されていることが挙げられます。
アルセナーレ(上の写真がその正門)は観光客で賑わうスポットから少し離れた場所にある造船所跡で、
大航海時代には造船の一大拠点でした。ヴェネツィアがかつて海洋国家として繁栄した歴史に触れられる重要な遺構ですが、内部の見学はほぼできないこともあり、旅行ガイド業界における扱いは低く、るるぶ本誌にはおそらく掲載すらされていないと思われます。
実際、
ウォーターセブン編のレイアウト原案にはアルセナーレは載っていませんでしたが、『るるぶワンピース』ならアルセナーレは絶対に載せるべき、と伝えて載せてもらいました。今思えば、
ガレーラカンパニーの社屋のデザインに、アルセナーレの正門の要素が入っているような気もします。
同様に、エニエス・ロビーの「
司法の塔」のページの
コラム枠には当初、別の近隣の定番観光スポットが掲載されていました。
差し替えてもらった
発見のモニュメント(上の写真)はかつて海洋大国だったポルトガルの大航海時代の偉人たちの像が、エンリケ航海王子を先頭にして東西(写真の裏側にも並んでいる)に並んでいる迫力ある巨大な記念碑です。国内の旅行ガイド業界においてはやはり扱いが低いものですが、『るるぶワンピース』ならこちらを載せるべきだと思いました。
エニエス・ロビーについては既にデザイン発注が進んでいる段階でしたので、誌面デザインを受け取ってすぐに、取り急ぎこの差し替え案を提示して、
マゼランと
ペドロの名前はこれらの偉人たちに由来しているはず、という思い浮かんだアピールを添えてメール返信しました。
すると、差し替えが間に合ったということで、すぐに変更された誌面デザインが返ってきて、マゼランとペドロが添えられた↓このような形になっていました。
それならば!じゃあ!
ということで、
大航海時代のポルトガルの偉人たちが名前の由来と思われるキャラクターは他にもいるので追加できないでしょうかと、おかわり発注したところ、「スペースの都合もあり難しいかも」ということでしたが、誌面は幸いあのような形になりました。
エニエス・ロビーについては
正門のデザインに気づけたところまでは良かったのですけど、少し悔しい点がありまして、編集作業が私の手から離れた後に気づいてしまったネタがあるんですよね。それをここで紹介します。
モロッコのアイット・ベン・ハドゥ
これは間違いないやつですよね orz
門から
モロッコにすぐに発想を飛ばせなかったのが敗因でした。
アニメ版もコミックスのデジタルカラー版もエニエス・ロビー本島の建物は茶色の配色になっているので、今見ると、このモデルありきの配色だったように思えます。カラーリングについて、栄ちゃんの監修が入っていたのかもしれません。
そうか、じゃあエニエス・ロビーはモロッコがモデルなのかと思えば、エニエス・ロビーから来た
司法船はインドの
タージ・マハルにある
大楼門(上の写真)がデザイン元だと思われます。モロッコのモスク等のイスラム建築には丸屋根が無いんですよね。
あと、実際に誌面になった特集を見て、ちょっと失敗したなと思ったのは
海列車の原画です。原案では海列車の初登場シーンの見開きが使われていたのですが、全貌がよく見えないので、誌面掲載の原画に差し替えてもらった経緯がありました。しかし、結果的に似ている具合がいまいち伝わらない原画比較になってしまった気がしています。初登場シーンは細部までしっかり描かれているため、似ている具合がよく分かるんですよね。
ロケットマンにつながる
ロケット号の逸話は多分載らないだろうなと思って送ったのですが、ほぼそのまま採用されている上に、写真(ロケットマンとは全然似ていない)まで掲載されることになって、ちょっと意外でした。
『るるぶONE PIECE』解説シリーズ 〜こぼれネタ編〜(次の話)
『るるぶONE PIECE』解説シリーズ 〜アーロンパーク編〜(前の話)
『るるぶ ONE PIECE』はこうやって作られました。(制作の裏話)