8月6日より公開されている映画『ONE PIECE FILM RED』が
公開から10日間で、興行収入70億6000万円、動員505万人を記録し、これまでの国内興行収入のシリーズ最高記録だった『ONE PIECE FILM Z』の68億7000万円を早くも抜きました。
これは映画メインキャラクターのウタの歌唱キャストに人気歌手のAdoさんを起用したこと、7組のアーティストが劇中歌を楽曲提供したこと、そのMVが制作されて公開されたことなど、映画公開前から話題性が非常に高かったことに加え、同時期に原作も最終章が始まるタイミングに「RED」が意味する重要キャラクターのシャンクスの登場が予告されていため、原作ファンの注目度も高かったこと、さらに、公開2週目には劇場ライブビューイングの舞台挨拶をセッティングしたこと、入場者特典第2弾に品薄で転売が横行しているバイダイのONE PIECEカードゲームのオリジナルスターターデッキを投入したことなどのあの手この手のマーケティングが功を奏したと見られます。8月27日からは入場者特典コミックスのまさかの第2弾(300万部)が投入されるとのことで、なり振り構わず、という感じです。
興行収入が歴代最高となることが早くも決定した『FILM RED』ですが、
その評価は賛と否に大きく分かれ、映画レビューサイトは大荒れとなっています。
映画.com(レビュー件数524件 ※8月16日時点)
Yahoo!映画(レビュー件数4539件 ※8月16日時点)
こんな両極端なことあります?w
一般的に、
賛否両論がある映画でも、基本的には評価は正規分布するものですけど、このように正規分布の逆のような、両極の二峰性になるというのは非常に珍しいです。少なくとも『STRONG WORLD』以降のワンピース劇場版では初めての事態です。
海外では『FILM RED』の公開が現時点で始まっているのは
フランス(8月10日公開)のみですが、
フランスの大手映画レビューサイト「AlloCiné」のユーザー評価も同じような具合になっています。
AlloCiné(レビュー件数195件 ※8月16日時点、評論家によるスコアは2〜4で平均3)
また、アメリカの大手映画レビューサイトの1つ「IMDb」には日本国内もしくはフランスで観たと思われる人のレビューが10件ほど付いており(※8月16日時点)、そちらも
絶賛と酷評に二極化しています。歴代シリーズを通して、海外でもこれは初めての事態だと思われます。ちなみに、同じく海外上映された前作『STAMPEDE』の海外の評価スコアは高く、前前作『FILM GOLD』は好意的ですがやや評価は落ちます(映画レビューサイトRotten Tomatoes、IMDb、Metacriticなど参照)。
ここで、私の立場を明確にしておくと、
映画の感想記事に書いた通り、『FILM RED』の評価は「否」側です。普段、TVアニメ劇場版に点数をつけて考えることはないですが、強いて5点満点で評価するなら、2点ぐらいでしょうか。
映画はお金と時間を払って、基本的には1回の視聴で完結するものなので、映画を初見で観終わった時に「良い映画を観たな」と思えることを、私は映画評価の重要な指標にしています。当たり前と言えば、当たり前ですが、この指標では難解な映画や芸術性が高くエンタメ性の低い映画などは私の場合、評価が低くなります。
しかし『FILM RED』がそういう映画だったというわけではなく、単純に映画中盤時点で退席しようかとも思うほど乗り切れないままエンディングを迎えてしまったというのが率直な感想です。前述のように映画というものはTVアニメや漫画とは全くの別物で、以前にも言及したことがあるのですが、栄ちゃんは漫画を描く才能があっても映画を作る才能は全くないと思っています(特にスクリプトチェックが甘いのと演出がダサい)。ただし、原作者が制作に関わることで劇場版の価値が上がっていることは間違いないわけですが。
『FILM RED』は試写会後の時点で既に評価は二分されており、公開初日の時点では、評価スコアは2点台にまで割っているレビューサイトもありました。
しかし、スコアが表示されるレビューサイトでよく生じる現象ですが、自身が思っているスコアより低ければ極端に高い点数をつけ、逆に自身が思っているスコアよりも高ければ極端に低い点数をつけてという具合に、
自身の評価とズレている全体スコアに対してカウンターしようとする動きがどうしても発生します。なので、元々高いスコアのものは下げられ、よほど酷い映画でなければ低いスコアのものは上げられ、結局、スコアは平らになり、長期的には点数差が縮むことになります。
したがって、『FILM RED』評も時間が経てば、中和されていくはずです。
全体は関係ないから自分の点数をつけろよ、っていう話なのですが(「賛否両論ありますが」と切り出して質の悪いレビューで5点満点を付ける人が典型)、それを踏まえると
初速・初動の評価が最もフェアだろうと考えられるわけです。
・・・そうなると結論として、
『FILM RED』の評価は賛否両論ある上で、歴代シリーズ史上最も低いと言えます。
残念ながら、これは事実です。
でも、映画を観て面白いと思った人はそれで良いじゃないですか。自分が面白いと思ったのだから。ちなみに私は『STAR WARS エピソードI』を子供の時に映画館で観て面白いと思いましたが、後々大きくなってから古参のスターウォーズファンや海外では酷評されていたと知ってビックリしたことはあります。
例えば、少年ジャンプで自分が面白いと思って読んでいても、皆んなが面白くないと思っているとその漫画を打ち切られてしまいますが、映画は完結しているので他人がどう評価してようと関係ありません。そして、共感できる人と楽しめばいい話です。
逆も然り。
少年ジャンプで自分が面白くないと思って読んでいなくとも、人気があれば続いていて、無駄な枠を使っているので早く終わって欲しいと思いますが、映画なら二度目を観に行くことはないのですから。
しかし、
制作側にはこの映画が成功したと決して思って欲しくないのと、不満を持っている大勢のファンを無視して映画が大絶賛みたいなことを宣われると、当然、面白くはないわけです。
ただ、それだけ。
公開2週目となった現在、映画レビューサイト(特に映画.comやYahoo!映画)では、普段レビューを投稿しない人達が賛否を問わず、質の低いレビューを投稿して(ただし前述の理由から、どちらかと言えば賛側の方が質が低いように見える)、賛側と否側のレビュー合戦のような様相を呈しています
(ちなみに、国内の大手映画レビューサイトのもう1つFilmarksはレビュアー同士がSNSのようにコミュニケーションを取れるためか、初動から酷評は少なく評価はマイルドで全体的に好意的となっている)。
本当に話題性に欠かない映画だと思うわけですが(→「
ウソップ無限ループ」)、「
この映画を面白いと思う奴は・・・」「
この映画をつまらんと思う奴は・・・」と、
矛先が映画ではなくレビュアーに向かっていくのはいただけません。
実際、私が書いた
映画感想記事のコメントにも、映画ではなく私に対して物申してくる人はいるわけです。何を言われようが、
私が初めて映画を観た時の感想を塗り替えることはできません。それは事実であって、私自身にもどうすることもできないものですから無意味なことです。
それよりも、『ONE PIECE』が好きな者同士で全く正反対の感想を抱く点には私は興味があり、それこそが映画と漫画が全くの別物であることの証明でもあるでしょう。
さて、お次は『FILM RED』のウタの劇中歌7曲を収録したアルバム『
ウタの歌』(8月10日発売)の話題です。
発売後からトップチャートを賑わせていましたが、8月16日にはついに、
収録された全7曲がAppleMusicの国内ランキング1位から7位までを独占するという快挙を成し遂げました。
7組のアーティストがそれぞれ楽曲提供し、Adoさんが独自の解釈で歌い上げた7曲はいずれもキャッチーで、シングルカットされてもおかしくないサウンドクオリティです。劇中歌のアルバムなので映画サントラというくくりではないですが、収録曲順は劇中と同じになっており、
コンセプトアルバムとしては屈指の名盤と言えそうです。
1曲目の「新時代」はオープニング曲に相応しいイントロで、
2曲目の「私は最強」で軽快に盛り上げ、
3曲目の「逆光」で激しく転調し、
4〜5曲目の「ウタカタララバイ」「Tot Musica」で怪しく、禍々しく捲し立て、
6曲目の「世界のつづき」でチルアウトして、
7曲目の「風のゆくえ」の力強く壮大なバラードで締める
という…
教科書のお手本みたいな完璧なアルバム構成となっています。
これがウタのライブだったら完璧なセットリストだったことでしょう(「Tot Musica」はウタの持ち歌ではありませんが)。特に「Tot Musica」から「世界のつづき」への落差が心地いいです。
そう思いながら聴いていると、
ボーナストラックの「ビンクスの酒」は物凄い蛇足に感じます。赤髪海賊団と一緒にいたウタが、幼少期に歌っていただろうという意図の選曲だと聞いて、ネガティブな印象はやや緩和されましたが、だとすると、Adoさんが歌い上げていることに違和感を感じてしまいます。
劇中でもウタの幼少期の歌唱パートには違和感があり、幼少期の歌唱パートはボイスキャストの名塚佳織さんが歌っても良かったのでは、後になって思ったりもします。成長すると歌声は変わりますからね。じゃあ、ボーナストラックの「ビンクスの酒」は名塚さんに、となるとまた別の不評が出るでしょうけども。
まぁ、ボーナストラックはアルバム評には入れないのが一般的(?)でしょうから、文句なしの名盤ということにしておきます。欠点を強いて挙げれば、曲数が少ないことでしょうか。
私は映画を1回観たきりで、アルバムは何回も聴いているのですけど、そうしていると何だか不思議な感覚になってきます。
まず、
ウタとAdoさんによる歌唱がどんどん乖離していきます。
元々ボイスキャストと声質が似ていないというのもあるのでしょうけど、MVやFNS歌謡祭、映画でウタが歌っている様子を見ているので、一応、同一視していたはずですが、ウタが歌っているという感覚は完全に薄れてきました。
一方で、
曲を聴くと映画の断片的な情景が浮かんできます。
ウタが歌っているシーンも思い浮かびますが、ウタが歌っているようには感じていなくて、そのシーンにBGMとして流れているような、まるで映画のMADを見ている感覚です(「ビンクスの酒」ではそれがない)。
そして、映画に抱いていたネガティブな感情は不思議と晴れいきます。
なので、
『FILM RED』がつまらかなったという人にも、このアルバムはおススメです(マジで)。
そもそもAdoさんが好きじゃない場合は太刀打ちできませんが。『FILM RED』が面白かったという人には当然刺さるアルバムでしょうけども、私が体験した奇妙な感覚は共感されるものなのか気になるところです。
超ワンピースファン的『ONE PIECE FILM RED』映画評論 【RED】
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