ONE PIECE
脚本:スティーヴン・マエダ、マット・オーウェンズ
撮影監督:ニコール・ハーシュ・ウィテカー
製作:トゥモロー・スタジオ
シーズン1:全8話
配信開始:2023年8月31日
Netflixオリジナルシリーズの超話題作である実写版『ONE PIECE』を視聴しました。
シーズン1は全8話の構成で”東の海”編までが描かれています。
字幕版の感想です。ネタバレありです。
原作との相違点とオリジナル要素
原作もしくはアニメ『ONE PIECE』を知っていると当然、実写版と原作の相違点が気になるわけですが、
これは挙げるとキリがありません(笑)。相違点はビジュアル面、ストーリー、設定、キャラクター性など多岐にわたります。
例えば、ジャンゴやウソップ海賊団、シュシュや はっちゃん、ガイモンらは実写版には登場しません。したがって、そのキャラクターに関連するエピソードや戦闘はもろもろカットされています。ストーリーもナミがシェルズタウンでゾロと同時加入したり、クリーク海賊団がバラティエに登場する前にミホークに壊滅させられていたり(したがって、ルフィとクリークの戦闘はない)、バラティエにアーロンがやって来て戦闘になったりと、
全8話にストーリーを圧縮するために大幅な構成変更が行われています。
ストーリー省略やポリティカル・コレクトネスのための変更ならまだ理解できますが、
シャムがメス化しているという意味の分からない改変もあります。このような改変は原作ファンから嫌われるものですが、作品全体で見れば稀な部類です。
また、実写版の
大きなオリジナル要素として、原作の”東の海”編では扉絵連載のみの登場である
ガープ(演:ヴィンセント・リーガン )がシーズン1を通じて登場しています。なんだったらロジャーの処刑の場面にもガープが立ち会って演説しています。
実写版では、ガープが事件後のシェルズタウン(実写版でモーガンはこの時点ではまだ逮捕されていない)を訪問しており、基地に侵入した「麦わらの海賊」を追う中で、それが自身の孫のルフィであると知ると、執念深く麦わらの一味を追い続け、シーズン1最終話でココヤシ村にてルフィと対面し、
実写版オリジナルのエピソードが描かれることになります。
実写版ではローグタウンがカットされており、代わりにローグタウンのルフィの名シーンの要素がガープとルフィのオリジナルエピソードに取り込まれているような形になっています。ともかく、シーズン1ではガープが追跡者として役割を担い、ルフィが賞金首になる前から海軍に追われるという構図になっています。おかげで
シーズンを通してドラマに緊迫感が生まれており、いい味付けになっています。
ガープの活躍のおかげで、実写版では
ボガード(演:Armand Aucamp)、
コビー(演:モーガン・デイヴィス)、
ヘルメッポ(演:エイダン・スコット)の露出も多いです。ガープの補佐役のボガードは原作でもかなりマイナーなキャラで、イメージもそれほど確立されていないキャラクターですけども、実写ボガードの歩き方や立ち振る舞いはキャラそのものという印象でした。
コビーとヘルメッポもハマり役です。
ヘルメッポは第1話のお笑い担当で、鏡の前で全裸でゾロの刀を構えていたところ、刀を取り戻しに来たゾロと遭遇して、ゾロの復讐により髪を切られて、あのオカッパ頭になったという設定に変わっています。ヘルメッポが異様に鍛えられた肉体なのもこのシーンの面白いところですw
海軍入隊後にコビーとヘルメッポの仲が次第に良くなっていく様子やコビーが自身の正義を模索する様が描かれているのも実写版の良いところです。さらに、シロップ村でウソップが「村に海賊がいる」と言って回って誰にも信じてもらえず絶望しているところに、コビーが登場して「ぼくは信じますよ」とウソップに耳を傾けるシーンはシーズン1前半のハイライトです。
もう一つのONE PIECEの物語
このように原作との相違が沢山あると通常はうんざりするところですが、今回の実写化では簡単にはそうはなりません。この理由は正確には分からないところですが、実写版『ONE PIECE』は無下に拒絶するには勿体無いほどの魅力があるということでしょうか。
まず、
世界観ですよね。
ニュースクーや電伝虫がCGによりまるで生きているかのようにそこに存在しています。カタツムリがリアルに巨大化したような電伝虫のビジュアルは衝撃的ですが、餌を食べているシーンは萌えポイントです(笑)。
作品全体としては、『ONE PIECE』を実写化すると、まるでティム・バートンのような世界観のような感じになるな、と(笑)。ビジュアルがヘンテコなんですが、それにツッコむ人は誰もいなくて成立しています。
ゾロの”三・千・世・界”など、実写化にあたり笑ってしまうような変なシーンもあるのですけど、それも許してしまえるような世界観です。
衣装は原作のビジュアルを再現しすぎるとただのコスプレに見えてしまうわけですけど、そのあたりのバランスを美術が上手くやっているのでしょうね。
莫大な予算が掛かっているだけあってセットはめちゃくちゃ豪華です。逆に、シモツキ村の道場は完全に野外の謎の板張りで残念なビジュアルではありました。予算尽きました?w
また、
実写版の海賊達はしっかり海賊行為をやっています。
第1話ではアルビダ海賊団が海上戦をやっていますが、こういった部分は原作ではほとんど描かれていない部分です。また、バギー海賊団は住民を捕らえて逃げられないようにし、強制的にサーカスの観客にするという、狂気のサーカス団として存在しており、原作のようなおバカな海賊団という感じではありません。これのお陰で実写の世界観に説得力が出ている気がします。
原作では描かれていないバロックワークスのMr.7がゾロを組織に勧誘するシーンでは、勧誘を断られてゾロを殺そうとしてきたMr.7をゾロが返り討ちにして、
胴体を真っ二つに切断して殺しています。第1話からいきなり「モータルコンバット」が始まって困惑するわけですが(ただし血飛沫は無し)、これで実写版が原作と一線を画しているということがはっきりします。
賞金首は”DEAD OR ALIVE(生死問わず)”ですから、”海賊狩り”と呼ばれた賞金稼ぎのゾロは殺しはやってるわけです。殺されたMr.7はその後、アメリカ特有のブラックユーモアで笑いに昇華されています。
そして、
敵役の怪演です。
バギー(演:ジェフ・ワード)と
ミホーク(演:スティーヴン・ウォード)は本作の助演男優賞でしょう。バギーとミホークは原作とは一味違うキャラクターになっています。バギーはほぼ「ジョーカー」ですけどもw
ミホークのあの血が通っていないような不気味な演技は素晴らしいものがあります。
それでも結局『ONE PIECE』として成立している根幹は
ルフィ(演:イニャキ・ゴドイ)のお陰なのかもしれません。
麦わらの一味のキャラクターは実写化により多少変わっており、
ウソップ(演:ジェイコブ・ロメロ・ギブソン)が顕著ですけども、ルフィに関しては
実写化の制限の中でなるべく原作通りの言動をさせていることが感じられます。
予告編でも同じ感想を書きましたけど、
ドラマのリアリティラインは上げられている一方で、ルフィは原作の再現に近いわけです。作品全体が原作の再現だと、実写では滑稽に見えますからね。ただ、『ONE PIECE』という作品を守るためにはルフィのキャラクター性はアンタッチャブルだったと。
「技名を叫ぶ」という非現実的な行動については、ルフィが強い奴は技名を叫ぶのが当たり前だと思い込んでいるという設定になっており、実写版でよりクールな
ゾロ(演:新田真剣佑)が呆れています。ただし、シーズン1最終話では
サンジ(演:タズ・スカイラー)もルフィと同じ理由で技名を叫ぶことが判明し、ゾロに「お前も同類か」とツッコまれています。このシーンはシーズン1で一番笑いました。ちなみに、アクションはサンジが一番いいです。
原作ファンとしては実写版は
もう一つの『ONE PIECE』として十分楽しめる内容です。
エピソードがかなりカットされているので理由がなく突然信頼が生まれていたり、
改変によりセリフに齟齬が生じていたり、
同じBGM(エンディングテーマ?)が何度も使いまわされていたり、
あれ?ナミ老けてね?と思ったり(実際、麦わらの一味キャストの中ではナミ役のエミリー・ラッドさんが最年長の30歳。ルフィ役のイニャキさんは最年少の20歳)、
ノジコを含めてココヤシ村の住人を好きになれなかったり(実写版ではココヤシ村の住人たちはナミがアーロン一味に入った理由を察していなかった。さらに、ガープ率いる海軍をルフィを捕まえようとした時に今更やって来た海軍に文句も言わず、ルフィを庇いもしない)、
と色々不満はありますが、
出航シーンで「ウィーアー!」のアレンジ曲が流れると全部水に流される感はあります(笑)。
実写版を観て気づく原作の良さ
原作の”東の海”編はストーリーが作り込まれており、丁寧なふりが色々あるため、カットすると原作の面白さを超えることはありません。原作を知っていると勝手に脳内補完できてしまうため、
『ONE PIECE』初見の人が実写版を観てどう思うのか分からないところです。
最初はワンピースファンの注目度の高さから当然視聴数は回りますが、続編制作の決め手はそのあたりじゃないでしょうか。製作費がトンデモないらしいですからね。
原作の見せ場のエピソードはなるべく残すようにはされていて、個人的に一番注目していたのはサンジの回想だったのですが、これは原作準拠で再現されていました。アニメだと遭難時にゼフが事故で脚を失っており、遭難日数も1ヶ月ほど減らされているので、アニメと原作どっちだろうと思って観ていました。
ただし、遭難してからサンジがゼフと再び接触するのは遭難70日目になるわけですが、サンジの子役はややふっくらしていて、遭難70日目には全然見えないのが残念なところではありました(笑)。役作りのために子役に痩せてもらうわけにはいかないのでしょうけども。
所々、重要な原作シーンは概ね再現されていて、ルフィの手配書が出たことに対する、これまで出会った人達の反応も映像化されていて、あぁ良かったなと思う一方、全体的に
物足りなさは感じます。
何が足りていないのかと思うと、多分リアクションなんですよね。
それも大きなリアクション。
実写版が漫画とアニメを超えられない部分はストーリーとこれですね。
『ONE PIECE』はリアクション(顔芸)漫画でした。
バトルシーンについてはまだ”東の海”編ですから、実写版の真骨頂は続編に期待したいところです。
To be continued...(シーズン2に続く?)