LOGPIECE(ワンピースブログ)〜シャボンディ諸島より配信中〜 尾田栄一郎「ボツ続きの暗黒の2年間が後々連載に役立った」
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『ONE PIECE』連載前の1994年にジャンプ増刊で発表された栄ちゃんの読切作品『MONSTERS』をアニメ化した『MONSTERS 一百三情飛龍侍極』の公式ガイドブック(7月4日発売)に掲載されている栄ちゃんと『MONSTERS』から読切『ROMANCE DAWN』(増刊版)まで(1994〜1996年の約2年間)担当した編集・久島薫さんの対談がかなり濃厚な内容でした。

このガイドブックでは『MONSTERS』のアニメ化にあたって、栄ちゃんが ”今の絵”で新たに描いたキャラクターのラフが掲載されており、このラフをもとにキャラクターデザインが設計されたそうです。ディーアールの風貌が大きく変わっていたのも、このラフがもとになっていたようです。

また、絵コンテに栄ちゃんが監修のコメントを直筆で書き込んでいる資料も掲載されています。

対談では、当時、描いた読切のネタ帳をスマホで撮影した画像も提供されており、それを眺めて栄ちゃんが色々語っているのも面白いです。

対談の内容はかなり長いので抜粋です。

ーー尾田先生からは、最初にキャラクターのラフを監督に渡していますよね(※本書40ページに掲載)。
尾田:はい。あれも「今ならこんなふうですかね〜」って、イメージを伝えるのにザーッと描いただけで、まさかそのまま採用されると思ってなかったんだけど(笑)。口を出したことといえば、セリフを少し変えましたね。最後のリューマのセリフ(「戦いってのはよ〜価値が決まるんだ」)が今見るとさすがに若すぎて…。これでも当時はだいぶ悩んで書いたセリフだけど、今の僕ならこんなくどい言い方はしないから。あとは絵コンテを見せてもらった時にいくつかリクエストを伝えました。シラノとのバトルはページの都合で省いただけなので、アニメではちゃんと描いてほしいとか。
(略)
尾田:あと、モブキャラをちゃんと描いてくださいと。当時の僕はモブの描き方なんて全然知らなかったから、原作のモブはもう…見てらんない(笑)。
久島:『MONSTERS』を描いたのって、ちょうど徳弘(正也)先生のアシスタントに入ってすぐくらいだっけ?
尾田:そうですね。まだ19歳でした。『MONSTERS』が増刊に載った時、徳弘先生に感想もらったの覚えてますよ
久島:なんて言われたの?
尾田:「面白かったでー」くらい言ってくれたんじゃなかったかな。あと、「ガサガサした線はもうちょっとなんとかならんかな」みたいには言われました。確かに丸ペンでガサガサ描いてたし、当時の原稿は本当にもうレベルがひどくて…。線は輪郭だけ太く描くとか、その程度の基本も何もわかってませんから。モブシーンも、人によって体格は様々なんだと頭では理解していても、いざ描くとそう描けないんですよ。

(中略)

尾田:僕ね、この対談のために調べてきました。この頃に描いたであろう読み切りの数々を。正確な時期まではあやふやなのもあるけど、当時のネタ帳に「どんな話をいつ描いてどのコンペに落ちた」まで書き残してあるんです。『照れ屋の吸血鬼の話』『田舎ら出てきた殺し屋4兄弟』『しゃべる魚の話』『真似が下手な鏡の話』『山賊と騎士団長の話』『忍者VS魔法使い』『雷様VSてるてる坊主』『大悪党と泥棒が対決する話』……色々描いてるなあ。
久島:見た覚えのないネタが多いな…。
尾田:久島さんと会う前に作ったネタも混ざってるし、見せずに自分でボツにしたのもいっぱいありますからね。(略)竜が出てくる話もいくつかあって、『竜に乗った少年の話』や『ランドと竜と10人の盗賊』、あとは『侍VS騎士』……これは侍の名前が「リューマ」で、竜も出てくるから『MONSTERS』のプロトタイプですね。この頃に僕が考えていたのは、自分が得意な主人公像として、ルフィみたいなキャラはすでにイメージできてたんですよ。それで次は、サブキャラクターを主役級に立てられるようになろうと思った。主役級のキャラを2人持っていれば、連載でも勝てると思ったから。リューマというのはまさにその「2番手」を目指して描いたキャラクターなんです。
久島:そんなことまで考える新人いないよ(笑)。
尾田:これは井上(雄彦)先生のマネなんです。僕は自分が新人の頃から、他の新人の漫画も好きで色々チェックしてましたけど、井上先生が手塚賞をとった『楓パープル』というデビュー作は、流川楓の話なんですよね。その後しばらくして『SLAM DUNK』が始まったら、流川が主役じゃなくて2番手で出てきたのが、すごくかっこよかった。僕もこれやりたい!と思って(笑)、自分を鍛えてました。

(中略)

尾田:おさらいすると、僕はストーリーで魅せたいんだと、面白いストーリーさえ作れば面白い漫画になるはずなんだと言ってましたが、それの何が間違っていたかというと、キャラクターがストーリーを作るんですよ。だからキャラクターがない漫画にストーリーなんてないんです。そいつが動かないと何も起きないんだから、じゃあ面白いヤツが動かないと面白い話にならないんですよ。それが答えだったんです。
それに気づけなくて2年間(『MONSTERS』掲載から『ROMANCE DAWN』掲載までの期間)相当苦しんだけど、後になって考えると、あのボツ期間はすごく大きかった。そこで溜めた大量のネタが、後々ほんとに役立ったから。さっき見せたボツネタの中に、もうルフィみたいな奴がいて、女泥棒もいて、別のネタには侍と騎士がいて(※『侍VS騎士』は『MONSTERS』のプロトタイプであると同時に、ゾロとサンジの原型にもなっていると述べられている)……『ONE PIECE』の主要メンバーが揃っていってるんですよね。仮にこのボツ期間がなくて、スッと『ONE PIECE』の連載が始まっていたら、ちゃんと使ったことがないキャラばかりで、あたふたしていたかもしれない。まあ結果論ですけど、とても重要な2年だったと思います。


ーー『MONSTERS』から2年を経て、ついに『ROMANCE DAWN』が1996年の増刊サマースペシャルに掲載されました。この読み切りは、どのように生まれたのでしょうか?
久島:2年も延々ボツが続くと、さすがの尾田君もだいぶ堪えてくる。ある時、食事終わりの打ち合わせで、尾田君が「もう僕はジャンプというメジャーな場所は諦めて、マイナーな雑誌に行ったほうがいいですかね…」って弱音を吐いたことがあって。あれだけジャンプでしか描かないと言ってた人が。すごく驚いたからよく覚えてる。
尾田:まさに一番落ちてた時ですね。
(略)
尾田:後にも先にも、僕の生涯でこの時期だけですね。自分がサラリーマンになった姿を想像したのは。大学辞めちゃったけど、今からでも会社って行けるのかな…って。子供の頃からずっと、漫画家になった自分の姿しか思い描いたことなかったですから。
久島:そこまで追い詰められて、ついに腹を括ったんだろうね。初連載のためにずっととっておいた、一番やりたい海賊モノで勝負しようって『ROMANCE DAWN』を描くことになった。
尾田:海賊と読み切りって、僕の中でまったく直結してませんでした。海賊を描くなら当然、連載。だって絶対長くなるから。だけど読み切りで海賊ネタを使おうと踏み切って……まさしく背水の陣ですよ。「これで失敗したら、おれはもうどうなるかわからんぞ」と。
久島:そこでとうとうルフィという、すごいキャラが出てきた。本人がどこまで意識したかはわからないけど、自分はやっぱり、尾田君が覚悟を決めたからこそ生まれたキャラだと思う。
(略)

ーー『MONSTERS』は結果も良かったとのことですが、どんな反響があったり、誌面に載ったのを見て尾田先生はどう感じたりしましたか?
尾田:(略)それも含めて絵的には後悔の多い作品だけど、演出は色々試してみたかったことをブッ込めたし、得たものは大きかったと思います。
ただ、ひとつだけ……『MONSTERS』の中のある場所で、それがどこかは言いませんけど、編集者のアイディアを組み込んだところがあるんです。久島さんから「編集部内でこういう意見があったよ」と伝えられて。
久島:増刊の掲載会議に『MONSTERS』を出した時にね。載ること自体は決まったけど、その会議で、他の編集者から「こうしたほうがいいんじゃない?」って意見やアドバイスを色々もらうんです。それを尾田君に伝えたら、普段そんなの聞き入れやしない尾田君が、この時はめずらしく納得したみたいで、その案を取り入れて直したんだよね。具体的には伏せるけど、確かにいいアイディアだったから。
尾田そうしたら増刊を読んだ知人に、まさにその取り入れた部分を褒められて……それが僕、めちゃくちゃ受け止めきれなかったんです。「そこ、僕が考えたんじゃないんだよな…」って。たった一か所、たったワンアイディアですよ?それでも、なんだか自分の作品じゃないみたいに感じてしまった。そこから僕は、二度と編集者の意見を作品に組み込まなくなったんです。(略)


サブスクで配信されているアニメなのに本編のDVDが付いちゃって、公式ガイドブックの定価は割高ですが、付録のワンピカード目当てで購入したユーザーが、ガイドブック本体を格安で出品しているため、大体1000円ぐらいで手に入れることができます。
ガイドブックの内容は普通に読み応えがあるので、おススメです。

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