■ マンガ建築考 -もしマンガ・アニメの建物を本当に建てたなら-(Think Map)
この本は「建築エコノミスト」の
森山高至氏がブログで綴る「マンガ建築考察」(たてもの二次元のカテゴリー)を書籍化したもので、収録されたテーマの半分以上は書き下ろしです。”建築エコノミスト”という独自の視点からマンガの建物を考察すると、意外な事実が判明したり、さらにはマンガの世界観も見えてくるという一風変わった内容になっています。専門的な話は極力避けて、わかりやすい言葉で説明されているので初心者でもサクサク読めます。
収録テーマは「グラップラー刃牙」の”地下闘技場”、「進撃の巨人」の”高さ50mの壁”、「めぞん一刻」の”一刻館”、「新世紀エヴァンゲリオン」の”綾波レイの部屋”などなど。
「
ワンピース」からは海底監獄”
インペルダウン”が取り上げられていたので、立ち読み覚え書きにてご紹介(適当に脚色していますので、悪しからず)。
■ 海底200mから建つ巨大建造物 ”インペルダウン”
↑海面に軍艦の船底が見える
まずはインペルダウンの大きさから。
525話の見開きページを見るとインペルダウンの海上1階の外周を囲む壁に海軍の軍艦が停留しているのが見られます。軍艦が約40mのガレオン船とすると、海上1階部分の直径は
約240mとなります。インペルダウンの海中階層はレベル1からレベル6まであり、各階層の天井は高く通常の建築物10階分程度と考えると、海中階層の
高さは約200mと推定され、海底からそびえる巨大建造物ということがわかります。同時に、海でいう200mはかなり浅く、どうやら”
凪の帯(カームベルト)”の海底は
大陸棚みたいになっているようです。
・建造は可能か?
海底200mから建つ建造物はもちろんありません。石油プラットフォームのように海中数百メートルに”脚”を伸ばして海上に”頭”を出した建造物はありますが、海底200mから一から建造することは難しいのです。しかし、不可能かというとそうでもなく、島を地下に掘り進めつつ地上から造っていくことは可能です。つまり、インペルダウンはもともと”
凪の帯”にあった島を改造した
半人工島と考えられます。そのような島は日本にもあり、最近話題になった軍艦島がそれです。軍艦島は長崎県の端島の通称で、海から見たその概観が「戦艦」に見えることに由来します。現在は無人島ですが、かつては海底炭鉱を掘り進めつつ、島の周囲を段階的に埋め立てた暦とした半人工島です。
軍艦島
そして、
インペルダウンの
モデルと考えられる半人工島がフランスにあります。その名は
ボワイヤー砦(Fort Boyard)。水面から真っ直ぐ人工物が伸びたその見た目は島の原型がもはや残っておらず、不気味な雰囲気をかもし出しています。アラン・ドロン、リノ・ヴァンチュラ主演のフランス映画 『冒険者たち』(1967年)の最後の舞台となった場所でもあるこの島は、かつては監獄として使用されており、まさにインペルダウンって感じです。
ボワイヤー砦(Fort Boyard)
・意外にもエネルギー効率の良い設計
インペルダウンの6つの地獄の2つ、レベル3の”飢餓地獄”とレベル4の”焦熱地獄”はエネルギー効率の観点から良くできています。”飢餓地獄”は十分な食料と水分を奪い、飢えと渇きを囚人に与えます。渇きはレベル4の”焦熱地獄”から昇ってくる「
廃熱」を利用しているのです。なんとも合理的ではありませんか。じゃあ、レベル4の”
焦熱地獄”に隣合うレベル5の”
極寒地獄”はどう説明する?と思ったあなた!ご心配なく。
熱あるところには冷気あり、冷気あるところには熱があるのです。
エアコンの室外機や冷蔵庫の裏を思い出してください。熱いですよね?冷房装置は「ヒートポンプ」というシステムが利用されているわけですが、簡単に説明すると冷やすためには熱を奪わなければならず、奪った熱は外に放出されます。すなわち、レベル5は
巨大な冷蔵(凍)庫なんです。”
極寒地獄”を冷やすことで発生した”熱”をそのまま海に放出したのでは、もったいありません。その”熱”は隣に面した”
焦熱地獄”に利用され、余った”熱”はインペルダウンの施設内の暖房として利用されるというわけです。
海底は肌寒いでしょうからね・。・
・浮かび上がる疑問~インペルダウンの秘密~
インペルダウンは巨大な冷蔵庫を備えていたことがわかったわけですけども、ここで少し気にかかるのが「レベル6ってしょぼくない?」という疑問です。ボンちゃんやルフィはレベル5で寒さと軍隊ウルフの群れに襲われ死に掛けたというのに、それに比べレベル6の”無限地獄”はどうでしょうか。原作の描写からおそらく、「檻に定期的にやってくる獄卒獣に殴られる」という地獄のようですが、獄卒獣は4人しかいないですし、他のフロアでも働いており、レベル6の囚人の数もそれなりに人数がいますから、その頻度というものはあまり多くはなさそうです。それに、ハンコックがレベル6に訪れた時、囚人達はむしろ活き活きとしていましたよねw
そう考えると、”無限地獄”とは名に相応しくなく、常に寒さに苦しむレベル5、常に熱さに苦しむレベル4、常に飢えと渇きに苦しむレベル3の方が地獄の質が上な気がします。シリュウが解放されたときの発言から”無限地獄”の無限とは”無限の退屈”を示していることがわかるわけですが、複数の囚人が入っている檻もあって徹底さに欠けるというか、なんだか取ってつけたような地獄ですよね。レベル5は軍隊ウルフが放し飼いされ、雪(霜)が積もり、木々が生え極寒の自然環境が再現されている内装の気合の入れっぷりに比べ、レベル6は”断熱材”のようなぶ厚いレベル5.5 ”ニューカマーランド”を挟んでレベル5の下に位置し、インペルダウンの床下収納スペースみたいものです。
極寒の自然環境が再現されたレベル5
さて、レベル5はどうしてこんなに気合がはいっているのでしょうか。そもそも囚人に寒さを与えるだけなら、木々を再現する必要はありません。軍隊ウルフには餌だけ与えていればいいのですから。では、なぜかと考えると、その謎を解くには
コペルニクス的転回が必要でした。
そう、レベル5は
軍隊ウルフを飼うための施設だったのです!(ええええええw)
ついでにレベル2の”猛獣地獄”には珍しい猛獣たちが飼われており、餌はブルゴリが海王類を狩って調達してくれます。
インペルダウンは猛獣の動物園だったのです!(どーん)
どうしてそんな施設を造ったのか・・・きっと、どこぞの天竜人が「軍隊ウルフを飼いたいえ」とか言って造らせたものなのかもしれません。その後、天竜人は飽きてしまい、残された施設を海軍が監獄に改造したというわけです。また、猛獣フロアの猛獣たちは天竜人が飼うのを飽きたものを海軍が引き取ったものなのかもしれませんね。サルデスは水族館のイルカの調教師、サディーちゃんはサーカスの猛獣使いといったところです。
インペルダウンにはそんな秘密が隠されていたとは。。
天竜人はホント迷惑なやつですね(天竜人のくだりは私が追加したのですけどw)。