漫画「ONE PIECE(ワンピース)」の人気が止まらない。単行本の初版発行部数は国内出版史上、最高記録を更新し続け、累計発行部数は2億8千万部を突破。漫画の世界を再現した「ONE PIECE展」(大阪天保山特設ギャラリー、2月17日まで)も来場者が20万人を超える賑わいを見せている。「桁違い」「モンスター作品」と専門家をもうならせる勢いだが、その人気の理由は、現代社会で希薄になりつつある「友情」「絆」などをストレートに描いたストーリー性にあるようだ。
■ケタ違いの発行部数
漫画家、尾田栄一郎さん(38)が描く海洋冒険漫画「ONE PIECE」は、海賊たちが覇権争いをする「大航海時代」が舞台。主人公の少年モンキー・D・ルフィが、大物海賊を打ち破りながら海賊王を目指すストーリーだ。
平成9年に週刊少年ジャンプで連載スタート、同年12月に単行本になった。子供向けの海洋冒険物語ながら、人の成長や関係性、リーダーシップなどのテーマに踏み込み、大人の心の琴線にも触れる内容で支持を集め、22年に発売された単行本57巻の初版発行部数が300万部に。それまでトップの「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(上・下)」の290万セットを抜き、日本最高の初版発行部数記録をつくった。その後も部数を伸ばし、24年11月に発売された最新巻68巻は、400万部に。“国民的漫画”と呼ばれている。
出版科学研究所(東京)によると、23年に初版発行部数が100万部を超えた漫画の単行本は「NARUTO-ナルト-」(58巻、155万部)、「HUNTER×HUNTER」(29巻、148万部)、「進撃の巨人」(6巻、105万部)などがあるが、200万部を超す作品は「ONE PIECE」だけ。漫画単行本全体の発行部数は18年から減少傾向にあり、「ONE PIECE」の伸びは「通常とケタ違い」(柴田恭平研究員)といえる。
■集客力はウルトラマン以上
そんな人気漫画の世界を存分に楽しんでもらおうと、発行元の集英社が中心となって、「ONE PIECE展」を企画。昨年東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開かれた展覧会には、3カ月で約51万人が来場。入場者数では、過去に同ギャラリーで開いた「ボストン美術館展」「ウルトラマン大博覧会」など人気展覧会を抜き去り、過去最高を記録した。
昨年11月には、大阪市港区の大阪天保山特設ギャラリーで展覧会をスタート。連日、多くの人がつめかけている。
館内に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、「冒険パノラマシアター」。名シーンをつづり、来場者を冒険の大海原へといざなう。4台の映写機によるスピーディな映像に次々現れるのは、コマ割りされた画面と「ドッ!」などという文字による擬音。漫画が動きだしたような不思議な感覚に包まれる。
■展覧会で涙
義兄エースを失い傷ついたルフィが、仲間との絆によって復活を果たすまでの場面を再現した「仲間シアター」。吹き出し入りのルフィたちのセリフを、あえて音声にせず、画面を通して言葉として読ませることで、見る人の心に感動的なストーリーがよみがえる。ここで涙を流す熱心なファンは少なくない。「漫画の世界に入り込み、原作を楽しんでもらうために企画しました。来場者がここで一つの同じ漫画を読む体験を味わってほしい」と、集英社宣伝部の大村有さんは話す。
最も人気が高いのは、原画コーナー。連載の開始時から最近の描き下ろしまで約100点の原画が展示されている。食い入るように見ているのは、週刊少年ジャンプの主な購読者層である小、中学生と、大人とが半々。幅広い世代が楽しめる漫画であることを示した形だ。
1月25日には来場者が20万人を超え、2月17日までの期間中に「目標としていた25万人を超えそうな勢い」(大村さん)という。
■心に響く「仲間への思い」
「ONE PIECE」の人気の理由はどこにあるのか。京都精華大学国際マンガ研究センター長の吉村和真准教授は「単一の理由では説明できないモンスター作品」と言う。
「デフォルメを効かせた絵柄、迫力満点のコマ使いや擬音と、アクションものとしての魅力も満載。だが、ドタバタだけでなく『友情』を中心に物語が構成され、仲間を大事にする気持ちなどがストレートな言葉で語られ、子供だけでなく、大人にも響くのだろう」と分析する。
また、日本の場合、1970~80年代から少年漫画の読者層が広がり、大人になっても少年漫画雑誌を卒業せず、読み続ける傾向がある。「ONE PIECE」単行本の売れ行きは大人や女性も支え、さらにインターネットを通して社会的関心を広げる構造ができている、とも指摘。「この人気現象は、もはや作品単独のおもしろさで語りきれるものではなく、日本の大衆文化や、ネットを含むメディア環境の中で形成されている」と吉村准教授は分析する。
前人未到の「ONE PIECE」人気。3月には69巻を発行予定で、初版が400万部を超すか注目されている。
(産経新聞)
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