尾田:ぼちぼちアレを言おうかなぁ…。ずっと心にひっかかってた事があるんです。このコマ、おぼえてますか?
徳弘:あぁ、これ尾田君が描いたやつだよね?
尾田:すごく信頼して任せてもらったコマで、僕は嬉々として描きまして。でも完成画を渡したとき、徳弘先生が「あれ、納得してへんの?」と言われたんです。結局、そのまま受け取ってもらったものの、あとでジャンプを見たときゾッとして。人物の顔形が全部同じだったんです。
徳弘:人物の集合って小さいからよりデフォルメして、バラバラに描かないとダメだよね。
尾田:僕描いたときの状況をはっきりおぼえてます。まず輪郭が全部同じで。
徳弘:じゃあ全部同じ顔になるな(笑)。
尾田:それまでの僕のマンガがまさにそうで。要はシルエットで描き分けてない事に気づかされたんです。でも、徳弘先生の大事な作品の中に、なんてものを描いたんだとすごく後悔してて。その後も先生に言い出せずにいて…。
徳弘:じゃあ今日、許したるわ(笑)。
尾田:ありがとうございます。やっと言えた…。でもこの日から僕、大きく変わったんです。いろんな輪郭を描いてから全部違う顔を作る練習をして。今日、『ワンピース』があるのはこの一コマがあったからだと思ってます。
徳弘:失敗を自分の反省点にして改善しようと思う人と思わん人がいるやん。そこで尾田君は思ったんや。平凡な人は思わへん。そこでヤバイと思えるかが売れる・売れないの分岐点やろうね。
尾田:僕にとって、あの時このコマをそのまま受け取ってもらった事が感謝であり、自分にとってのすごい分岐点なんですよ。まぁ、今は本当にやりすぎで、ワケ分からないくらいになってるんですけど。でもそれぐらいキャラクターはシルエットで見るのが大事だと、このとき教えてもらいました。
徳弘:気持ちだけで嬉しいよ。
尾田:とんでもないです。
徳弘:毎年お中元とお歳暮も、もらってるしな(笑)。
尾田:一生送り続けます(笑)。