お笑いコンビの雨上がり決死隊がMCを務めるテレビ朝日のトーク番組「アメトーーク!」。あるテーマで集められた「○○芸人」のくくりトークが定番になって以降、「スラムダンク芸人」「ジョジョの奇妙な芸人」「北斗の拳」「魁!! 男塾芸人」「キン肉マン芸人」「ドラゴンボール芸人」など、番組では漫画とりわけジャンプ漫画をトークテーマにした回が度々放送されています。
その中でも最も成功したと言える回はヤングジャンプで連載中の『キングダム』を扱った「~なぜハマる?~キングダム芸人」でした。この回の反響は放送後のコミックスの売上げにはっきり表れており、『キングダム』のヒットに拍車をかけたことは間違いありません。逆に失敗だったと思う回は今年の5月に放送された「HUNTER×HUNTER芸人」が記憶に新しいところです。ここでは、「HUNTER×HUNTER芸人」の失敗と「キングダム芸人」の成功から学び、将来放送があるかもしれない「ONE PIECE芸人」がどうあるべきかをちょっと考えてみたいと思います。
まず「HUNTER×HUNTER芸人」の何がダメだったのか。『キンダム』も『HUNTER×HUNTER』もストーリー漫画であるわけでストーリーの魅力を伝えるのが一番大事なところですが、プレゼン内容は読者にとっては大した共感を得られない、かつ説明不足と感じるもので、非読者にとってはあまりストーリーの魅力を感じづらいものになっていたはずです。
オープニングのあらすじ説明から良くなかったのは、作中の”念”能力がさも使えて当たり前のような世界観と誤解させるような内容だったことです。そもそも
『HUNTER×HUNTER』における”念”は『ONE PIECE』において”覇気”に相当する劇中序盤では隠された上位概念ですから、最初の紹介で出すことがまず間違っています。あらすじは父親を探すため、主人公のゴンがハンターになることを目指して旅に出るぐらいでよく、ゴンが父親と会うことで一旦物語上の最終回を迎えて、物語はさらに広がるという2段構えの構成でストーリーを紹介すれば良かったものの、番組ではほとんどキメラ=アント編の印象的なシーンの紹介に終始していました。
『HUNTER×HUNTER』が面白いのはまず初っ端のハンター試験編だというのにこれについては一切触れられていません。そしてハンターになった後に知る念の修業、ヨークシン編での幻影旅団との対峙する緊迫感、グリードアイランド編の戦略の緻密さなど『HUNTER×HUNTER』のストーリーの面白さを語るにはこの辺りまでで十分で、キメラ=アント編までは必要ない気すらします。そもそもキメラ=アント編を語るなら、まず某国をモデルにした舞台設定の妙とキメラ=アントという架空の生物の説明をちゃんとするべきなのに、それもせずにこのシーンが良かっただのと語っているのです。コムギとメルエムのシーンではカットでもされたのか、コムギが盲目という一番重要な点も説明なしでした。
”ゴンさん”が紹介されるのは当然として、主人公のゴンの良い子そうで実はヤバい奴というキャラクターの魅力が十分に伝えられたとは思えません。また、主要登場人物で魅力的なキャラクターの一人であるキルアについて全く触れられていなかったのは違和感すら覚えます。『ONE PIECE』で言えばゾロに一切触れないみたいな。
伏線回収までに何年掛かったという類いのトークは魅力的ではなかったです。長期休載を何度も経ている連載漫画ですから、伏線回収までに何年掛かったかというのは意味のある議論ではありませんし、その紹介において
結果的に番組を通してネタバレが多くなってしまったのが痛手でした。同様に伏線回収に時間が掛かる『ONE PIECE』でも、この手の話題には注意が必要でしょう。
では次に「キングダム芸人」は何が良かったのか。小島瑠璃子さんの羌瘣など、出演者のコスプレの完成度が高かったのは置いといて、それは番組中でも出演者らに評されているところで、実際に読む楽しむ余地を十分残した、かつ興味をそそるちょうどいい説明だったということです。
オープニングのあらすじ説明では古代中国の春秋戦国時代、大将軍に憧れる主人公の信と秦の始皇帝となる政がともに中国を統一するまでの物語とだけ、最低限の説明がされています。そして非読者の視聴者にちゃんとフォローしてもらうように物語冒頭の第1話と第2話は物語の摑みとして時間を使って説明しているのがポイントです。
物語にハマる体験を共感してもらうために、『キングダム』を知らない出演者に実際にコミックスを別室で読んでもらう、また予めコミックスを読ませた上で新鮮な感想をVTRで随時もらうという演出も非常に優れていました。
また、キャラクター紹介では「最初は嫌な奴だけど、後々好きになる」「その理由は読んでみれば分かる」という具合に、ここでも説明しすぎず、興味をそそるようなプレゼンに徹していた印象です。
ポイントをまとめると次のようになります。
・あらすじの説明は最低限の情報で簡略化する
・物語の冒頭と設定をしっかり押さえる
・名シーン紹介に終始しない
・ネタバレを極力避ける
・実際にコミックスを読ませて感想をもらう
最後の項目以外、何だか当たり前のことを書き連ねてしまった気がします。
では、このメソッドを「
ONE PIECE芸人」に当てはめると、具体的にどうなるかも考えてみます。
・あらすじの説明は最低限の情報で簡略化する
物語は大海賊時代、海賊王になることを夢見る少年ルフィが”ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)”を目指す…話ですよね、『ONE PIECE』は。
・物語の冒頭と設定をしっかり押さえる
第1話の内容はもちろん、大海賊時代を迎える原因となったロジャーの処刑、悪魔の実、海軍、世界政府、グランドラインなどのONE PIECEの世界観はしっかり押さえましょう。
・名シーン紹介に終始しない
『ONE PIECE』の名場面としてよく挙げられるシーンは章のクライマックスであることが多く、読み進めた上で感動があるものですから、作品を紹介する番組の趣旨には適さないものが多いかもしれません。ネタバレを極力避けたいわけですが、熱量が上がるシーンとして空島を目指すジャヤ島での顛末やギア2がお披露目となるブルーノ戦、世界観の広がりを感じさせるシャボンディ諸島の超新星登場あたりがちょうどいい気がします。
・ネタバレを極力避ける
『ONE PIECE』の魅力を挙げるとすれば、柱となるのは壮大なストーリー、魅力的なキャラクターの数々、世界観の広さでしょう。それに加えて、散りばめられた伏線とこれでもかと焦らされて新情報が徐々に明かされていく演出が巧妙です。巧妙な伏線回収は是非語りたいところですが、ネタバレを避けるためにやめておきましょう。その代わり、回収されていない伏線・謎を語る分には読者の視聴者にも、非読者の視聴者にも興味をそそる内容になるかと思います。
例えば、タイトルの『ONE PIECE』の真の意味であったり、ワンピースは何か、ロジャーが処刑の際に大海賊時代を招来させる発言をした意図、ルフィのDの意味などです。
また、既に回収された伏線や謎でも、答えを伏せて紹介すれば、読者の視聴者は上から目線で、非読者の視聴者は興味を持って観ることができる内容になるかと思います。
悪魔の実の系統の説明で『ONE PIECE』を知らない出演者に「自然系が最強」と思ってもらえれば「それはどうかな?」となりますし(武装色の覇気や覚醒のことは言わない)、第1話の紹介でシャンクスが近海の主を目力で追い払うシーンに突っ込んでもらえれば思うつぼです(覇王色の覇気のことは言わない)。栄ちゃんが主人公の悪魔の実の能力を考え抜いて”ゴムゴム”のゴム人間にしたエピソードを話せば、読者には納得できるものでしょう。
キャラクター紹介では最近発売された総集編に掲載されている「予想以上に活躍したキャラクター」のエピソードを交えて一部紹介すれば、読者もしくはアニメ視聴者も楽しめること請け合いです。
・実際にコミックスを読ませて感想をもらう
ネタバレを避けて紹介できない名シーンもこの手法を使えば、生の感想は伝えることができ、非常に有用です。実際に読んでもらう芸人は『ONE PIECE』を読まず嫌いをしている人がいるならば、そういった人に読んでほしいものですね(笑)。
その他のバラエティ要素としては能力名を当てるクイズなんかはそれほどネタバレになりませんし、面白いと思いますよ。”ククククの実”なんて「なんだっそら!」となること請け合いです(笑)。あと、これから読むという人には扉絵連載の重要性も伝えておかないといけませんね。
と、このように色々考えてみたものの、果たして「
ONE PIECE芸人」は実現するのか。放送のタイミングは連載○0周年記念、最終章突入記念、連載完結記念などが可能性として考えられますが、連載完結記念にいたっては番組が続いているかどうかも心配になってきます。ともかく、企画が実現したとして「HUNTER×HUNTER芸人」の二の轍を踏まないことを切に願います。いや、「HUNTER×HUNTER芸人」もキスマイの宮田さんの鎖のエピソードとか水見式の茶番は面白かったんですけどね。作品紹介という点ではダメダメでした。
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