子供の頃から落語が好きだったという栄ちゃん。落語好きゆえに『ONE PIECE』には意識的に、あるいは意図せず落語的な要素・場面が多数含まれているようです。季刊誌『ONE PIECE magazine』で不定期連載されている「落語で読み解くワンピース」(〜第3幕)では、落語家でありワンピースファンの林家けい木さんがワンピースの落語的な要素を解説していてます。これが結構面白く、『ONE PIECE magazine』の中で好きな記事なものですから、ワンピースの落語要素というものをまとめておきます(強引と思うものは除いています)。
1『強情灸』
強情な男の話。お灸を熱がる友人が癇に障り、「灸なんか熱いもんか」と、本来なら数回に分けて据える灸をいっぺんに据えてしまう。やせ我慢を続けるものの、火が下に回ってくると猛烈な熱さに耐えきれず、もぐさを払い落としてしまう。その男が一言「あー、冷てえ」。
『ONE PIECE』第1話
「おれはケガだってぜんぜん恐くないんだ」と根性を見せようとしてナイフを顔に突き刺したルフィ。痛さのあまり「いてえ〜〜」と叫んでしまう。涙を目に浮かべてルフィが一言「あー、いたくなかった」。
2『鷺取り』
鳥を捕まえて金儲けしようとした男が面倒ごとに巻き込まれてしまう話。寝ている鷺を見つけて何羽も帯に挟むも、鷺たちが起きて、男の帯に挟まったまま空に飛び立ってしまう。空に連れられた男は必死に何かにつかまって助かるも、そこは寺の五重塔のてっぺんだと分かる。
『ONE PIECE』第8話
お腹を空かせたルフィは空を飛ぶ大きな鳥を捕まえようと飛びかかるものの、逆に鳥に咥えられて、そのまま連れらてしまう。空を行くと、バギーの大砲で撃ち落とされ、バギー海賊団と遭遇することになる。
3『猿後家』
顔がサルにそっくりで猿後家と呼ばれている後家(未亡人)の話。当人はそれをひどく気にしていて、「サル」とつく言葉を聞くだけで烈火のごとく怒るため、彼女の前では「サル」とつく言葉が禁句になっている。
『ONE PIECE』第9話
大きな赤い鼻がコンプレックスのバギーは、鼻を馬鹿にされることに敏感で、少しでも鼻を馬鹿にされていると思うと烈火のごとく怒る。
手下「小屋の鍵がつけっぱなしに・・・」
バギー「誰がつけっ鼻だァ!!!!」
手下「マッタクの誤解ですっ!!」
バギー「真っ赤でデカイですだァア!!?」
『ONE PIECE』第219話・第220話
猿らしいことに美徳を感じている変わり者のマシラ。「サル」と呼ばれることを喜び、「サル」とつく言葉に敏感に反応する。
ナミ「これから船をサルベージなさるんですか?」
マシラ「なサル!?おい…そんなにおれはサルあがりか?」
ナミ「ええ(汗)」
マシラ「いやまいったなあ」
ルフィ「あ さるだ」
マシラ「え?おれはそんなにサルあがりか?」
ルフィ「ああ さるまがいだな」
4『浮世床』
小咄を集めた髪結い床(当時の寄合所でもある)の話の一節。いびきがうるさい男がいて、揺らしても起きない。「飯だ」と言うとすぐ起きて、開口一番、ノロケ話を語り出す。「女に惚れられるのは疲れてしょうがねえ」。芝居で知り合ったあだな年増と楽しく飲んで、飲みすぎて布団で横になっていると、女が長襦袢一枚で「御免遊ばせ」と布団に入ってきた。話を聞いていた若い衆が「こんちくしょう、入ってきたのか」と羨ましがると、男は「という時に、起こしやがったのは誰だ!」と怒り出す。男は夢の邪魔をされたようで。
『ONE PIECE』第49話
クリーク艦隊はミホークに撃沈される。恨みを買った覚えがないというギンに、ゼフが一言「昼寝の邪魔でもしたとかな…」。
『ONE PIECE』第458話
頭を思っ切り殴っても起きないルフィ、ゾロ、サンジの3人。ウソップが「美女の剣豪が肉持ってやって来たぞ」と言うと、ルフィ、ゾロ、サンジが「肉」「剣豪」「美女」にそれぞれ反応して目を覚ます。
5『長短』
気の長い長さんと気の短い短七さんという二人の男の話。二人は性格が真逆なのになぜか昔から仲良し。ゆっくり喋る長さんの話を聞き終わるまで待ちきれず短七さんは「で!?」「で!?」と先を急がせる。
『ONE PIECE』第160話
ゆっくり喋るMr.4と短気なミス・メリークリスマスのコンビ。
6『首提灯』
ほろ酔いで歩いていた男が侍に道を尋ねられる。田舎侍と見くびった男は悪態をつき、痰を吐きかける。これに堪忍袋の緒が切れた侍は目にも留まらぬ居合抜きで男の首を切って去って行く。斬られたことに気づいていない男は鼻唄を歌いながら歩いて行く(落語の世界では、こういった速斬りを「鼻唄三丁矢筈斬り」と言う)。ところが首がグラグラして血も出ており、ようやく斬られたことに気づく。道先には火事が起きており野次馬が。人混みを掻き分けると首が落ちてしまうと思った男は提灯代わりに首をひょいっと持ち上げて「はいごめんよ、はいごめんよ」。
『ONE PIECE』第462話
ブルックの得意な速斬りの剣技”鎮魂曲・ラバンドゥロル”に付けられた通称「鼻唄三丁矢筈斬り」。
7『厩火事』
ひも亭主を持つ女の話。女の仲人が瀬戸物に凝っているとある男の話をする。女房が瀬戸物を運ぶ際に転んだ時、その旦那は「瀬戸物は大丈夫か」しか言わず、女房の身を一切心配しない。女房は里へ帰り、離縁を申し込む。女の亭主も瀬戸物に夢中で、亭主の気持ちを確かめるため、女は仲人の指示で、亭主が一番大事にしている瀬戸物をわざと割る。すると、亭主は瀬戸物を一切気にせず女の体ばかり案じてくれる。女は喜ぶが、亭主が一言「おめェにケガでもされたら、明日から遊んで暮らせねェ」
『ONE PIECE』第446話・第483話
皿に恨みがあるマルガリータ(シンドリーの影の主)。婚約していた大富豪の主人の愛を試す為に主人の宝物の10枚の皿を全て叩き割ったところ、婚約破棄され顔にハナクソをつけて追い出された不幸な過去を持つ。影が戻った(鏡に自分が映った)ことに驚いて、だんな様の家宝のお皿を割ってしまう。だんな様は家宝の皿を気にすることなく「皿なんてどうでもいい」「ケガはないか」とマルガリータの体を心配してくれる。
8『一眼国』
見世物小屋を持っている香具師が、一つ目の人間の噂を聞いて、見世物小屋に出そうと一つ目の人間を捕まえに行くも、一つ目の国で捕まってしまう。男は世にも珍しい二つ目の人間として見世物小屋に出される。
『ONE PIECE』第592話
ナマクラ島のハラヘッターニャの民は腕の関節が一つしかない珍しい人間として見世物小屋に出すために手長族の盗賊に人攫いにあっていた。ついに捕まった手長盗賊は腕の関節が二つある珍しい人間として見世物にされそうになるが、ブルックがこれを阻止。しかし、今度はブルックが珍しい動くホネとして手長盗賊に攫われてしまう。
9『手遅れ医者』
どんな患者にも「手遅れ」と言う医者の話。患者が死んでも「手遅れ」が原因であり、治れば手遅れの患者を治した名医ということになる。屋根から落ちた患者にも「手遅れです」。いやいや、すぐに連れて来たと言うと「落ちる前に連れて来ないと」。
『ONE PIECE』第594話
白衣の背中に「手遅れ」の文字が書かれた海軍本部の軍医が描かれている。
10『熊の皮』
女房の尻に敷かれている少し頭の悪い男の話。町の医者からお祝い事の赤飯をもらったとのことで、女房にお礼を言って来いと言われ、お礼の口上を教え込まれる。医者の家に着くと、お祝い事を祝う口上の前半まで言えたものの、後半は思い出せない。医者のお祝い事とは患者の病を治した礼に熊の皮を貰ったことだった。男が「これは何にするものですか」と尋ねると、医者は「尻に敷くものだ」と答える。尻に敷くもので「あっ!」と思い出した男は、「女房がよろしく言ってました」と口上の後半(赤飯のお礼)を思い出す。
『ONE PIECE』第610話
シャーリーの「人手は充分」という言葉に、あっ!と、「ヒトデ」のパッパグのことを思い出すケイミー。
11『胴斬り』
侍の刀の試し斬りに会い、胴体を真っ二つに斬られてしまった男の話。不思議なことに斬られた上半身と下半身はピンピンしており、上半身は銭湯の番台に、下半身は麩を踏む職人になった。下半身の様子を見に来た知人は下半身に話しかけると、ちゃんと声が返ってくる。オナラで話しているらしい。下半身は知人に上半身への言伝をお願いする。「ガブガブ水を飲まないでくれ。しょっちゅう便所へ行かなくちゃならねぇから」。
『ONE PIECE』第656話・第659話
ローの能力によって胴体を斬られた錦えもんの胴体と下半身は別々に行動。下半身はオナラで喋っていた。「離れられたでござブ!!」「死ぬわけにはいかぬのだブ!!」
12『夏の医者』
夏の畑仕事で倒れた百姓の息子が隣村の医者を呼びに行く話。医者が百姓の様子を尋ねると、萵苣(チシャ)を食べたと言う。「それはいけない。夏のチシャは腹に障る」。医者が山を越えて患者がいる隣村に向かうと、道中でウワバミ(大蛇)に出くわし、一飲みにされてしまう。医者は下剤を胃袋に巻き、ウワバミは悶絶の末、腹の中の物を排出。肛門から脱出した医者はウワバミに胃の中に薬箱を置いて来てしまったことに気づく。医者はウワバミにもう一度飲み込んでくれと頼むが、ウワバミが首を横に振って一言「夏の医者は腹に障る」。
『ONE PIECE』第754話
捕らえられていたカン十郎と無事再会した錦えもん。カン十郎は能力で描いた萵苣(チシャ)を勧めるが錦えもんは「おぬしのは腹に障る」と断る。
13『抜け雀』
一文無しの絵師の男が宿に泊まる話。宿賃のカタに、衝立に5羽の雀を描いて出て行く。男が出て行った翌朝、雨戸を開けると、衝立から雀がチュンチュンと抜け出して行った。しばらくすると雀は戻って来て、衝立の絵の中に戻る。雀の絵が評判を呼び、宿は大繁盛。
14『つる』
生き字引の甚兵衛さんが鶴の名前の由来を男に尋ねられて、ある時、首長鳥(甚兵衛曰く、鶴の昔の呼び名)が雄の一羽が「ツ〜〜〜」と飛んで来て松の木に止まり、首長鳥の雌の一羽が「ル〜〜〜」と飛んで来て松の木に止まった。それを見た老人が「ツル」と呼んだのが始まりと冗談を言う。これに感心した男は鶴の由来を知人に話す。「首長鳥の雄の一羽がツル〜〜〜と飛んで来て松の木に止まったんや。あと、雌がお前、雌が・・・」。
『ONE PIECE』第836話
ランドルフの鶴が「ツ〜〜〜」と鳴いて近づいて来て「ルーーー」と鳴いて飛んで来る。そして「ツル〜〜〜」と鳴いて滑空する。
15『熊五郎』『小言幸兵衛』『お見立て』『明烏』『らくだ』
・色々な落語に登場する「八っつぁん・熊さん」。熊は熊五郎。
・『小言幸兵衛』は幸兵衛という気を回しすぎる大家の男の話。
・『お見立て』などの廓話(遊郭が舞台のネタ)に登場する花魁・喜瀬川。
・『明烏』は初心な男・時次郎が遊郭デビューする話。
・『らくだ』はらくだという名の男がフグに当たって死ぬところから始まる。
『ONE PIECE』第929話
質に入れられたカイドウの屋敷図を探すため、フランキーは屋敷図の持ち主を辿る。
屋敷図の持ち主:クマ五郎→幸ベエ→きせ川→時ジロー→らくだ
16『あたま山』
ケチな男がサクランボを種ごと食べたところ、翌朝、頭の上から芽が出ている。摘み取るのは勿体ないとそのままにしていたら、みるみる育って立派な桜の木になり見事な花を咲かせた。これが噂になり、人々が男の頭の上に登り、花見をする騒ぎに。
『ONE PIECE』第925話
ワノ国・九里「頭山」。山頂に一本桜が生えている頭山を根城にする頭山盗賊団の棟梁・酒天丸(アシュラ童子)。髪の毛はピンク色で羽織に桜、肩には桜の紋々。
記事では『あたま山』はまだ取り扱われていないのですけど、ワノ国編ではまだまだ落語要素があるのだとか。