・ハラルドとイーダ
前回から始まった
109年前の若き日の
ハラルドの回想の続きです。
ハラルドは
ドリーと
ブロギーと共にやんちゃな幼少期を送り、”古代巨人族”の血を引く天性の巨体と怪力そして地位により慢心極まり、誰にも止められない「クズ」なエルバフの王に成長していました。
ハラルド:「エルバフ」以外の奴らは弱くて小さくてつまらねェ
ところが、ある日、「新世界」バント王国で出会った巨人族の女性
イーダがハラルドの考え方をまるっと変えてしまいます。
ハラルドはイーダが人間族に捕らえられて見世物にされていると勘違いしてイーダを助け出したものの、実際は、漂流して死にかけたイーダを助けてくれた上に、怪我が治るまで仕事をくれていたという事情がありました。
イーダは事情も知らず暴力的な行為に及んだハラルドを一喝(ビンタ)。
さらに、人間族を見下すハラルドに鉄拳制裁を与え、「たまたま大きい体に生まれただけで」「人間族より偉いなんて勘違いして」「みっともない」と説教するのでした。
このイーダの説教は傍若無人だったハラルドに周囲が驚くほど突き刺さります。
そして、ハラルドはイーダとバント王国の国民との交流を通して、
エルバフが学ぶべき文化を人間族はたくさん持っていることも知るのでした。
その後、ハラルドはイーダと共に旅をして、イーダに帰る場所がないと知ると、イーダをエルバフに連れて帰ります。
そして
105年前、暴君だったハラルドは「今までの数えきれぬ罪を償いたい」と改心して、
隣国から新しい文化を学び、エルバフをもっと豊かにすると宣言します。名君ハラルドの始まりです。
当初のハラルドの政策は、
人間族との友好的な交流を進めるもので、ハラルド自身が遠征して直接交流を広げていったようです。この時代、エルバフの長けた航海術は他国にとって魅力的だったそうです。
しかし、エルバフ(ウォーランド)が世界政府加盟国ではないことは後々、国交の壁となったようで、正式な
国交を結ぼうとすると「世界政府」に阻まれることがしばしば起きたみたいです。
ハラルドが「世界政府」に近づく動機にはこのような背景があったと考えられます。ただし、ロキが生まれるまでの本話の回想では、まだそのような様子は見られません。
81年前、イーダとハラルドの子(
ハイルディン)が生まれます。
ハイルディンの出生の話(
1137話)で明らかになっているように、エルバフの慣習により、イーダがエルバフの巨人族ではないこと(南の海
サムワナイの生まれ)を理由にハラルドとイーダの結婚は許されず、イーダとハイルディンが城に住むこともできませんでした。
イーダはイーダを受け入れてくれていたエルバフの東の”
漁師村”でハイルディンと暮らすことになります。イーダは「これも”文化”よ」と、この処遇を受け入れており、ハラルドと同じ国に住めれば十分と言います。
一方、ハラルドには結婚相手として
エストリッダが充てがわれます。
エストリッダはエルバフの北の”
酒村”の権力者の娘で、容姿端麗、古代巨人族の血を引いており、血筋はエルバフの王家として申し分ない人物ですが、
性悪でした。
エストリッダは王妃になるとすぐに”地風術”(おそらく風水の類)を口実に贅沢を極めたようです。
・ロキ誕生
63年前、ハラルドとエストリッダの子(
ロキ)が生まれます。
しかし、生まれたロキの顔を見て恐怖したエストリッダは、
ロキを出産直後にネグレクトして、周りの制止を聞かず、ロキを「冥界」に落とすのでした。
しかし、エストリッダの想像を超えて”怪物”だったロキは「冥界」に落とされても死なず(冥界の怪物も倒した?)、生まれていきなり、はいはい どころか宝樹アダムをよじ登って城に帰還します。
ロキの出産はハラルドが遠征中で、エストリッダはロキが死産だったことにして、里へ帰るつもりでしたが、「冥界」に落としたロキが帰って来たことに腰を抜かして病に倒れます。
エストリッダとしては、ロキに恨まれて殺されてもおかしくないわけでして、
ロキが呪われていると主張し、自身を正当化しようとしたようです。
例えば、ロキが生まれる前からハラルド王は「息子によって殺される」と予言されていたというのは(
1136話)、 エストリッダがこの時に言った狂言だったようです。
ところで、
ロキの目は(幼少期以降)ここまで包帯が巻かれていたため、赤ん坊の時ここで初めて露見しています。
猫の目のように瞳孔が縦に細長く、白目がないのが特徴的です。
エストリッダがロキの目は呪われているとして包帯で隠すように命じたのでしょうか。
ともかく
エストリッダの吹聴が功を奏したのか、ここからエルバフを襲う不幸の全ては”ロキの呪い”と呼ばれることになるそうです。
その一部は
1136話で語られています。
まず、ロキは生まれて間もなく、王家に仕える”
幸運の馬”を殺したとされています。
この馬はエストリッダが王妃になった際、エストリッダの一族がハラルドに贈った8本足の巨大な馬で、名前は
アスラと言います。
実際は、足が絡まって転倒して死んだのか、はたまたエストリッダがロキを殺すためにアスラをけしかけてロキに返り討ちにあったのか。
また、エストリッダはロキを産んだ1年後に死去したとされています。
そもそもエストリッダが本当に病に倒れたのかは怪しいところで、実際は蒸発しただけという可能性はあります(財宝も持ち出して)。しかし、それだと王家としてバツが悪いので、エストリッダの主張を取り入れてロキの呪いでエストリッダは死んだことにしてたのかもしれません。
ハラルドは遠征で城を空けていることは多いですし、母親に拒絶されて呪いの王子として疎まれたら、そりゃあロキじゃなくてもグレますよ。
・血の蛇
イーダとの会話から、
ハラルドが”
赤い土の大陸(レッドライン)”のことを”
血の蛇”と呼んでいることが分かります。
これはエルバフ特有の呼び方だと思われますが、注目なのは、エルバフに伝わる「神典(ハーレイ)」(
1138話)にも「
蛇」が出てくることです。それも「
地の神」と共に。
「第一世界」
地に炎あり
人は欲望に負け
禁断の太陽に触れた
隷人は願い
”太陽の神”は現れた
地の神は怒り
業炎の蛇と共に
世界を死と闇で包んだ
彼らはもう会えないのだ
「ハーレイ」は古い言葉で書かれているため、誰にも翻訳できないまま現代に伝わっているわけですが、「地の蛇」がレッドラインを意味するように、「蛇」が
細長い大陸の比喩の名残であれば、「
業炎の蛇」は細長い大陸を意味しているのかもしれません。
それも「地の神」が怒って突如現れた大陸です。
それによって「彼らはもう会えない」状態になったのかもしれません。
この仮説では「業炎の蛇」とはおそらく
レッドラインの前身となる大陸のことで、「地に炎あり」ということですから、当初は燃えている大陸だったのかもしれません。そして、燃え尽きた後、”赤い土”(実際の赤土の成分は酸化鉄など)が残った、と。
