尾田: 連載が終わるときの岸本さんのメディア担当編集が、前に僕の担当編集でもあったの。だから「『NARUTOーナルトー』が終わるときは絶対に何かしよう」って密かに相談していて。彼にもアイディアを出してって、ずっと言ってたんだよね。
岸本: え〜、そうなんだ。そんなの知らなかった。
尾田: 結局、その担当が何も企画を持ってこなくて(笑)。じゃあ、『NARUTOーナルトー』の素材をとにかく描き込んでいこうって思って、全部その場で考えたんです。
岸本: そうなんだ。大変だったでしょ。
—— 壁に貼られたお店のメニューの頭文字をつなげていくと、「ナルトお疲れさんでした」というメッセージになるんですよね。
尾田: 「一楽」(作品中でナルトが行きつけのラーメン屋)っぽい雰囲気のメニューにしようと思って、じゃあ、どうせなら何かメッセージも隠してやろうかと。誰も気づかなかったら岸本さんだけに教えようと思っていたんだけどアッという間に気づかれちゃった(笑)。
岸本: ただ、僕は最初それにまったく気づいていなくて。弟(漫画家の岸本聖史氏)が電話で「後ろのメニュー、ちゃんと読め。メッセージになってるぞ」って教えてくれて、「本当だ!」みたいな(笑)。
尾田: それにしても、みんなよく気づくよ。うまく隠したと思ったんだけど。
—— 読者はメニューの「ルッコラのサラダ」でピンときたみたいです。
尾田: 「ル」のつく食べ物を探したんだけど、定食屋さんにありそうなメニューであんまりなくてさ(笑)。
岸本: あの扉絵、ルフィがラーメンを食べてて、ナルトが肉を食ってるってのもいいよね。
尾田: ルフィがお肉をあげるって相当だよ(笑)。
岸本: しかも、『ONE PIECE』のその回(第766話)のタイトルが「スマイル」。なんかグッときたなぁ。けっこう話題になったけど、このうれしさは僕にしかわからないと思った。
尾田: ここだけの話、本当は扉絵じゃなくて本編で『NARUTOーナルトー』へのメッセージを描くつもりだったの。そしたら、ちょうどコラソンの回想編を描いてて、ルフィが出てこない。本当ならいろんな背景に『NARUTOーナルトー』のマークを入れたり、ルフィの顔にナルトみたく線を入れようと思ってたんだけど、『NARUTOーナルトー』の最終回までに回想編が終わらなかったんだよ。
岸本: そうなんだ(笑)。でも、この扉絵を見たとき、僕ももっとやればよかったって思った。
—— 岸本先生は『NARUTOーナルトー』の最終話で、火影になったナルトの石像のオデコに「麦わらの一味」のマークを描かれてましたね。
尾田: あれね、事前に岸本さんから連絡をもらってたの。「子供が落書きしたという設定にするから、麦わらの一味のマークを描いてもいい?」って。もちろん何も問題なかったんだけど、最終回だし『NARUTOーナルトー』ファンが怒らないか心配で。
岸本: 大丈夫でしょ(笑)。あの絵にマークを入れたら、絶対に話題になるとは思ったけど。
尾田: でも、まさかあんなにでっかいページに入れるとは(笑)。
(連載完結記念 岸本斉史 NARUTO−ナルト−展 公式ガイドブック「道−MICHI-」)
尾田: 『ジャンプ』の中でふたつの”バトルファンタジー能力もの”が同居できたのは、ひとえに岸本さんのおかげだよ。
岸本: いやいや(苦笑)。
尾田: 同じ系統の漫画があると読者を奪い合うことになりがちなんだけど、岸本さんがいろいろ計算して、『NARUTOーナルトー』と『ONE PIECE』がかぶらないように避けてくれたんです。色ひとつ取っても、ルフィが赤を使っているから『NARUTOーナルトー』は別の配色にしている。『NARUTOーナルトー』に赤の印象って全然ないでしょ? そうやって事前に衝突を防いでくれてたんですよ。ただ、もし岸本さんが僕より2年前に連載を始めていて先に赤を使っていたとしても、僕は赤で挑んでいたと思うけど(笑)。
岸本: そこは性格が違うから(笑)。確かに『ONE PIECE』とかぶらないようにっていうのは、連載中、常に意識してたよね。
尾田: こうやって話してるけど、実際、それをやるのは相当難しかったと思うよ。僕だって、いかに『ドラゴンボール』と違いを出していくかっていうのが大変だったから。
岸本: そうだよね。
尾田: 『ドラゴンボール』の連載が終わって、5年たっても読者の中には強烈な印象が残っていたし、何より僕が楽しんで読んでいた漫画。真っ正面から戦っても敵うはずがないんですよ。だから、そこは避けて出るしかなかった。
岸本: わかるなぁ。
尾田: だから僕としては、読者に対して「バトルものじゃなくて冒険もの」というイメージを強く押し出したんです。岸本さんはもっと大変だったと思うよ。『ドラゴンボール』と『ONE PIECE』のふたつを避けなきゃならなかったから。
岸本: 確かに試行錯誤しました。尾田さんは冒険ロマンものを描いているから、それはできない。じゃあ『NARUTOーナルトー』は冒険に出るんじゃなくて、一回出たら毎回帰ってくる里を作ろうって思ったんです。あと『ONE PIECE』は少しずつ仲間が増えていくので、『NARUTOーナルトー』は最初から仲間がいて、一気に出せば違って見えるのかなって考えたり。
尾田: そういえば、僕も唯一『NARUTOーナルトー』を避けたことがあって。実はサンジの名前って、もともと「ナルト」だったんです。だけど『NARUTOーナルトー』が始まった瞬間、これは長期連載になるぞって思ったから、慌てて名前を付け替えたの。
岸本: それって、どのタイミング? あのまゆ毛はもうイメージできてた!?
尾田: そう、サンジの眉毛がグルグルしてるでしょ? それであいつは「ナルト」だったの、設定ノートではずっと。だからサンジが登場するより先に『NARUTOーナルトー』が始まって
くれて助かったよ。後から来られたら逃げようがないからね。
岸本: そうかな。
尾田: もし、サンジの名前が「ナルト」だったらどうした?
岸本: たぶん、避けてた(即答)。
尾田: 主人公の名前だよ?(笑)
岸本: そしたら「メンマ」か「シナチク」にしてた(笑)。マークを、ちょっと考え直さなきゃいけないけどね。
尾田: 「シナチク」って外国人の読者が言いづらそう(笑)。ただ、ルフィの拳が巨大化する「ギガント・ピストル」のときは、事前に岸本さんに連絡したよね。ほら『NARUTOーナルトー』が第二部になったとき、チョウジの拳が倍化するシーンがあって……
岸本: あったあった。
尾田: それを見て僕はビックリして、ギガント・ピストルを出すときに「ちょっとかぶるけど、ごめん」って連絡したの。
岸本: 気にしなくていいのに(笑)。
尾田: でも、そうやって岸本さんがいろいろと考えてくれたからこそ、ふたつの作品が共存できたんですよ。
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尾田: 岸本さんはアニメ好きだから、漫画じゃ見たことのないエフェクトが入ってくるんだよね。表現方法がスゴいんですよ。ナルトたちが使う術にしても、スケールが大きくなればなるほど、それをどう表現しようかって悩むと思うんだけど、岸本さんはそのバリエーションが豊富。
岸本: エフェクトは好きだし、こだわりがあるから(笑)。
尾田: 一番驚いたのは、透明の術を使う敵が水中に入るシーン。影の部分だけを描いているんだけど、すごくうまくて感動したもの。ああいう手法は自分で編み出したの?
岸本: 「カカシ外伝」のときかな。どうだっただろう?
尾田: 僕も透明人間を出したときに、マネさせてもらいました(笑)。
岸本: やっぱり見るところが違うな。でも、そういうふうに言ってくれるのは、すごいうれしい。
尾田: あと、色。ホント、いい色を選ぶよね。色使いには何か、こだわりがあるの?
岸本: いや、あんまりないかな(笑)。
尾田: 好きなんだね、渋い色が。
岸本: そう、渋いのが。
尾田: 僕、もともとは岸本さんが描いてるような渋い色が大好きなんですよ。でも『ONE PIECE』は少年漫画だからって、無理やり原色を入れていって。今はもう、素で原色が好きなんだけど、苦労しました。そのチェンジに(笑)。
岸本: そうなんだ。ポップですよね。色味がすごく。
尾田: でも、それがまた違いになってよかったのかもね。『NARUTOーナルトー』と『ONE PIECE』は。
岸本: 僕は『ONE PIECE』の色使いは難しくてできない。これは尾田さんの武器ですよ。いろいろ見たけど、こういう色の使い方はほかで見たことがない。もともと持ってる才能かと思ってたけど、やっぱり意識してたんだ、このポップな感じ……。すごいよ。
尾田: めっちゃ虹とか描くようになったよ、僕(笑)。
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尾田: 連載中に最も大変だった時期はそこ?
岸本: いや、最後の最後かな。実は最終回はカラーがあったんで、けっこう前に描いてたんです。掲載号もすでに決まってるから、そこに合わせて話をつなげていかなきゃいけない。でも、最終回が近づくにつれ、やっぱり話数が足りなくなっていくんですよ。普通だったら、もう一週延ばすとかできるんだけど、今回はそうもいかないじゃないですか。正直、やべぇって思ったときもありました(笑)。
尾田: そんな焦りは全然見えなかったけどな。コマ割りにもゆとりあったし……。ナルトとサスケの最後の戦いに到達するまでの大きな流れも、前もって考えてたわけでしょ。そこに持っていくのも大変だった?
岸本: 大変だった(笑)。
尾田: 僕も『ONE PIECE』で最後のホンワカしたところを描くのは楽しいかなって思うんだけど、そこに持っていくまでには大きな戦いもあるわけで。今、いろいろ構想はあるけど、やっぱり大変なんだね(笑)。
—— 気が早いんですが、岸本先生の次回作の構想は……?
岸本: 具体的にはアレだけど、SFものをやりたいなぁ。雲が好きなので、空を飛びたいんですよ。尾田さんが「空島編」をやっているとき、本当にうらやましかったもん。
尾田: それ、すごく言ってたよね。
岸本: あれは読んでいて気持ちよかった。僕がやりたかったけど、『ONE PIECE』で先に描かれちゃったから……もうやらない(笑)。
尾田: ほら、また避けてくれた(笑)。
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—— 岸本先生が『ONE PIECE』で好きなキャラクターやストーリーを教えてください。
岸本: 尾田さんが目の前にいるから言うんじゃないけど、全部好きですよ(笑)。キャラクターだと”バネバネ”の、ベラミーも性格とか能力的に面白いけど……やっぱりチョッパーかな! ヒルルクとの出会いとか、島を出る時に「サクラ色の雪」が降り注ぐところなんて、めっちゃ感動するじゃないですか。
尾田: そう言ってくれるのは、ありがたい。
岸本: ただ、大好きなんだけどやっぱりチョッパーは怖いっていうか、いろんな意味でルフィより、パワーを持ってません? だから僕は「本当のボス」はチョッパーだと思っていて(笑)。
尾田: アイツは裏で悪いことを考えている……ってウソつけ、やめろ!(笑)。ウラ話をすると、チョッパーって、苦し紛れで生まれたものなんです。もともとは、ノッポのギャグキャラで、「二足歩行をするトナカイ」みたいな位置づけだったんだけど、ルフィやゾロ、サンジといったそれまでの5人の人気が出すぎちゃって、チョッパーの立ち位置が見つからなかった。そのままのデザインだと、ほかのキャラに食われちゃうなって思って、ちょっとちっこくしたんですよ。
岸本: それであのキャラクターができたんだね。ただ、僕としては、本当にチョッパーがうらやましかった。
尾田: 前から言ってるよね、それ(笑)。
岸本: 実は僕も、マスコットを狙おうと思ってピンクのオタマジャクシのキャラクターを作ったことがあるんだよ。単行本や『ジャンプ』の表紙にさりげなく描き込んでみたりもしたんだけど……全然人気が出なかった。
尾田: (笑)。でも、連載してると想定外の出来事っていっぱい起こるじゃない? 僕にとっては、チョッパーもそのひとつだったんだよね。
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—— 尾田先生は『NARUTOーナルトー』ではどのキャラクターが好きですか?
尾田: ロック・リーやマイト・ガイ先生かな。岸本さんのカンフーアクション、うまいよね。
岸本: 小さい頃からジャッキー・チェンが好きで、よく見てたから。
尾田: あと、デザイン的には再不斬がすごくカッコよかった。
(連載完結記念 岸本斉史 NARUTO−ナルト−展 公式ガイドブック「道−MICHI-」)
尾田: 「NARUTOーナルトー展」開催おめでとう!! ロック・リーを描いてみました。ナルトとルフィは描いたことあるから、ナルトの次に好きなリーを選びました。描いてて思ったんだけど、カワイイよね。岸本さんは時々『OP』にはチョッパーというマスコットがいていいなーなんて言ってたけど、『NARUTOーナルトー』ではまさに、リーがそうなんじゃないかと思う。登場すると空気が変わるしカッコカワイイ。これからもリーを活躍させ…終わったのか!!!
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